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アンドリュー・ワイエス展 [美術]

2月10日(火) 名古屋まで仕事で行きました。
2~3ヵ月毎に行われる会議のためで、1時頃に終わるので、
その後は美術館へ行くのを楽しみにしています。
前回は、松坂屋美術館でボッティチェッリの《聖母子と天使》を見てきました。
http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2008-12-08

今回は、愛知県美術館のアンドリュー・ワイエス展に行きました。
Wyeth.jpg
愛知県美術館のチラシ。割引引換券がついていて、1,200円が1,100円になりました。

「創造への道程(みち)」という副題がついていまして、
鉛筆での素描から、水彩、ドライブラッシュ、そしてテンペラで絵を完成させる
そのワイエスの創造のプロセスがよくわかる展示となっていました。

アンドリュー・ワイエスと言えば、《クリスティーナの世界》が代表作ですね。
この作品、私は教科書で見たのかな? 上手い画家だなぁというのが最初の印象。
その後、いくつかの作品を美術雑誌などで見ました。
写実的であるのだけど、抑えた色使いや、描かれている荒涼とした風景などに、
なにか物語性というか、詩情のようなものがあって、日本のワビ・サビや水墨画に
通じるようなカンジで、いいなぁと思っていました。

でも、実は私はアンドリュー・ワイエスについて全くわかっていなかったんだと、
ちょっとショックだったのが、去年の12月7日にNHK教育テレビで放送された
「新日曜美術館」の「はかなさに秘められた情念 ワイエスのアメリカ」を見て。
こちらに放送内容が少し紹介されています
 http://www.nhk.or.jp/nichibi/weekly/2008/1207/index.html
あの《クリスティーナの世界》 ピンクのワンピースを着て草原に横たわる女性、
私はこの草原は彼女の心象風景――寂しさとか、絶望とか――のようなものとして
描かれたものだと思っていましたが、
クリスティーナは足が不自由で、両手を使って這って家に戻るところなのだと!
そう言われれば、ただ彼方を見つめているにしては不自然な姿勢、
力を込めて前方に突き出された細い手‥‥
しかし彼女と家の間には、ものすごい距離があるのでは??
そういうことを知ってこの絵を見ると、この荒涼とした草原は、
絶望なんて感傷が入るような抒情的な湿った風景ではなく、
彼女の、障害にもかかわらず、自分のできることをやる不屈の精神の前に存在する、
乾いた荒野なのだと。

この展覧会には《クリスティーナの世界》は展示されていませんが、
鉛筆や水彩で描かれた習作が何点か展示されていて、興味深いです。

《クリスティーナの世界》はニューヨーク近代美術館が所蔵していて、
他の美術館に貸し出されることはなかったのだが、
今年1月16日にワイエスが亡くなって、ペンシルヴェニア州の
ブランディワイン・リヴァー美術館でお別れの会(彼の人生と作品をしのぶ会)が
開かれた日とその翌日だけ例外的に貸し出されたとのこと。
(愛知県美術館の公式ブログの記事「ワイエス展 作品を借りる難しさ」より)
 http://blog.aac.pref.aichi.jp/art/2009/02/000092.html

この記事を書いたのは愛知県美術館美術課長 高橋秀治さんだと思われますが、
「新日曜美術館」のワイエスの回に出演されていて、
“日本のワイエス研究の第一人者”と紹介されていました。

ワイエス本人にも何度もお会いしているとのことで、
ワイエスから愛知県美術館に作品を寄贈してもらったりしているようです。

ワイエスが今年1月16日に91歳で亡くなった後、中日新聞の夕刊に追悼記事を書かれていました。
愛知県美術館の公式ブログにも追悼の記事があります。
 http://blog.aac.pref.aichi.jp/art/2009/01/000078.html

折りしも愛知県美術館で展覧会が開催中で、1月10日にはワイエスの唯一の孫娘、
ヴィクトリア・ワイエス氏を招いて記念講演会をする予定だったのが、
日本へ行くことができないという連絡が入り、急遽、ピンチヒッターとして
講演会の演壇に立つまでのことも、公式ブログにありました。
「アンドリュー・ワイエス展記念講演会の舞台裏」
 http://blog.aac.pref.aichi.jp/art/2009/01/000076.html
1月14日の記事なので、この時はまだアンドリュー・ワイエス氏は存命だったんだと、
ちょっと感慨深いです。

展覧会で、アンドリュー・ワイエスと孫娘が対談している映像が流れていました。
91歳にして、まだ真摯に制作を続ける姿勢はすごいと思いましたし、
まるでワイエスの絵のような色調の二人のバック(レンガ?の壁とブルーのソファ)が
とても印象的でした。

そう、この展覧会の会場の絵、どれも色調が同じなんですね。
寒々とした冬枯れのような色調‥‥
今、ミュージアムショップで人気のしまマフラーにすると、こんなカンジでしょうか?
Wyethimage.gif
「しまマフラー」についてはこちらの記事をどうぞ
 http://blog.aac.pref.aichi.jp/art/2008/12/000060.html

そして、絵から自分の感情をあえて排除しようとしていると感じた。
例えば、松並木の下に、松ぼっくりが入ったヘルメットが置かれている絵
《松ぼっくり男爵》1976年 福島県立美術館蔵
新日曜美術館によると、ドイツ系移民夫妻の妻は、生活のために松ぼっくりを
拾ってヘルメットに入れている。そのヘルメットは夫の、
第一次世界大戦時の輝かしい栄光の記憶がつまったものだという。
彼らの今のつましい生活、ドイツでの暮らし‥‥
そんな夫妻への思いがあって描かれた絵だという。
素描では松ぼっくりを拾う妻が描かれていた。しかし最終的にテンペラ画では、
松並木の下にヘルメットがポツンと置かれているだけ。
‥‥説明されなければ、どっしりした松並木がリアルに描かれた暗く陰気な絵としか
思わないだろう。まぁ、それでもいいのかもしれないが‥‥緻密に描かれた絵からは、
なにか、情念のようなものが見えるような気がして、
それがワイエスの絵の魅力だと思う。

この展覧会は、東京・渋谷の Bunkamuraザ・ミュージアムで
去年の12月23日まで開催されていたもので、
愛知県美術館の会期は、2009年1月4日~3月8日
その後、福島県立美術館へ巡回。会期:2009年3月17日~5月10日

この時は同じ建物の8階にある愛知県美術館ギャラリーで(ワイエス展は10階)
日展も開催されていて(1月21日~2月15日まで)
余力があれば、そちらも‥‥と思っていたのですが、なれないパンプスを履いていて、
足が痛くなったので(地下鉄代を節約しようと、1つ手前の駅で降りて歩いたのも原因)
そちらはあきらめて帰りました。
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びっけ

アンドリュー・ワイエスと「クリスティーナの世界」についてのエッセイ?が、高校の英語(Reader )の教科書に載っていました。
絵そのものから受けるイメージも大切だなと思うけれど、
その絵に対する画家の想いを知ってから見ると、受ける印象が変わる(深まる)というのは、ありますね。
実物を一度見てみたいです。
・・・ニューヨーク近代美術館か・・・遠い。(^^;
by びっけ (2009-02-22 12:38) 

しーちゃん

びっけさん、nice! & コメントありがとうございます。私の英語の教科書にはワイエスの話は出てきませんでした。美術の教科書?だったかで、ただ絵が載っていたので、上手い絵で、なんか詩的な雰囲気があるなぁーくらいに思っていたんですよ。なので、クリスティーナが足が不自由で、這って家に戻るところというのを知って、あらためて、この絵に対する印象が深くなったというか。完成されたテンペラ画では、あえてそぎ落としているように感じたのですが、アメリカの片隅に暮らす人々への畏敬の念を持って制作していた画家だったのだなぁと、そんなところが、アメリカの国民的画家と言われるところなのでしょうか。
by しーちゃん (2009-02-23 00:04) 

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