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愛知県美術館「月映」展 [美術]

5月31日(日)まで愛知県美術館で開催されていた
「月映」展のことを。
この展覧会、5月10日(日)と、最終日の5月31日(日)と、
2回も見に行ってしまいました。
(ま、愛知県美術館友の会会員で無料で入れるってのもあるんですが)
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1回目の5月10日(日)は、名古屋市博物館の「いつだって猫展」を見た後で。
猫展と違い空いているだろうと予想してました。

だって、木版画‥‥それも三人の美術学生によって作られた
60ページ足らずの冊子『月映』‥‥の展示で、ちょっとジミじゃない?と。
(観覧料もちょっと安めの一般当日900円という設定)

予想通り、ゆったり鑑賞できました。
鑑賞者もいつもより若い人の割合が多いような気がしました。

でも、私、この展覧会、私のツボっぽくて楽しみにしていたんです。
ちょっとレトロなチラシの雰囲気もいいなと。

100年前、3人の若者が木版画にかけた青春。
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月映の3人の若者、田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎のうち、
私は田中恭吉しか知りませんでした。

萩原朔太郎の第一詩集『月に吠える』の挿画を描いた人だと。

萩原朔太郎は私の大好きな詩人です。
高校時代、現国の教科書で萩原朔太郎の詩に出会い、
(「竹」と「青樹の梢をあふぎて」が載ってました)
彼の詩集や彼について書かれたものを読みはじめました。

その時に『月に吠える』の挿画を見て、
アール・ヌーボーや世紀末っぽい雰囲気の絵も素敵だったけど、
田中恭吉が結核で23歳で夭折したということを知って、
ロマンチックだと、乙女チックに胸ときめかせておりました。
‥‥でも、幼い子供が死ぬのはもちろん痛々しいけど、
  死とは何かが十分理解できる、そしてこれから結婚や仕事への
  希望にあふれていたであろう二十歳前後の若者の不治の病―結核―
  なんと残酷な病であったのでしょう。

ついでに思い出話を‥‥
萩原朔太郎の詩集から、ノートに気にいった詩を書き写したりして、
(まぁ、乙女チックな女子高生がよくやることですね)
そのノートには中原中也、立原道造の詩が書かれていき、
その後に三好達治、西脇順三郎や田村隆一なども加わりました。
当時は『詩とメルヘン』も愛読していました。

そんな私のちょっと懐かしの乙女心をくすぐるような展覧会でありました。
また会場にあった鑑賞ガイドと「月映ものがたり」の
少女マンガっぽく描かれた3人の物語がすごく良かった!!

鑑賞ガイド(作品リスト付)
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月映ものがたり
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この少女マンガっぽい3人のイケメンぶりが、乙女心をくすぐります!
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これは愛知県美術館が作ったもの?
イラストは名古屋市の漫画家・温田庭子さんだそう。
「つくはえtwitter」の3人のアカウントも興味深いです。
愛知県美術館、頑張ってますね!
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(中日新聞5月5日(火)の記事より)

そしてかなりの作品が愛知県美術館蔵ってのにも驚きました。
展示されていた機械刷りの「公刊『月映』」は、
ほとんどが愛知県美術館所蔵のものなんですね!

展覧会の最後の方には萩原朔太郎が恩地孝四郎にあてた手紙も
展示されていて、興味深く見ました。

『月に吠える』は、田中恭吉の死後に出版されたんですね。
萩原朔太郎が発行されたばかりの『月映』を見て、詩集の挿画を
田中恭吉に依頼したけど、制作の途中で田中恭吉は他界。
恩地孝四郎がその後の仕事を引き受けて完成させたものだと知りました。
恩地孝四郎は三人の中で最初に竹久夢二と交流を始めたり、
「月映」発行の実務的な仕事も行っていたんですね。

田中恭吉の病的で繊細な画風もいいし、
日本で最も早く抽象表現へと進んだ恩地孝四郎もいいけど、
私は、自刻木版ならではの単純化表現の藤森静雄が好きみたい。

迷ったけど図録買わなかったんです。
で、記念にポストカードをと、気に入ったのを2枚選んだら、
どちらも藤森静雄のでした。

藤森静雄《かげ》
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この立つ男のくっきりとした影がいいですね。
光を感じます。

そして、チラシやチケットにも使われていますがやっぱり、
藤森静雄《夜のピアノ》
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この作品を見ていて、昔、ノートに書き写した
萩原朔太郎の詩を思い出しました。

黒い風琴

おるがんをお弾きなさい 女のひとよ
あなたは黒い着物をきて
おるがんの前に坐りなさい
あなたの指はおるがんを這ふのです
かるく やさしく しめやかに 雪のふつてゐる音のやうに
おるがんをお弾きなさい 女のひとよ。

だれがそこで唱つてゐるの
だれがそこでしんみりと聴いてゐるの
ああこのまつ黒な憂鬱の闇のなかで
べつたりと壁にすひついて
おそろしい巨大の風琴を弾くのはだれですか
宗教のはげしい感情 そのふるへ
けいれんするぱいぷおるがん れくれえむ!
お祈りなさい 病気のひとよ
おそろしいことはない おそろしい時間はないのです
お弾きなさい おるがんを
やさしく とうえんに しめやかに
大雪のふりつむときの松葉のやうに
あかるい光彩をなげかけてお弾きなさい
お弾きなさい おるがんを
おるがんをお弾きなさい 女のひとよ。
(後略)


萩原朔太郎 詩集「青猫」より

愛知県美術館: http://www-art.aac.pref.aichi.jp/
月映展公式ウェブサイト: http://tsukuhae.com/

『月映』展は、
宇都宮美術館 2014年11月16日(日)~12月28日(日)
和歌山県立近代美術館 2015年1月17日(土)~3月1日(日)
愛知県美術館 4月17日(金)~5月31日(日) と巡回してきて、次は
東京ステーションギャラリー 9月19日(土)~11月3日(火・祝) だそうです。

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1999年に発行された愛蔵版詩集シリーズ


「師よ 萩原朔太郎」という詩もある三好達治が編んだ
萩原朔太郎詩集 岩波文庫


タイトルにひかれて読みましたが、萩原朔太郎のおどろおどろしい詩のイメージを使って面白かったです。
内田康夫の4作目の長編推理小説だそう。浅見光彦は登場しませんが。


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