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豊田市美術館「わが青春の上杜会」 [美術]

1月12日(火)豊田市美術館へ行き、
「デザインあ展」を見たことは前記事

豊田市美術館では
「わが青春の上杜会 − 昭和を生きた洋画家たち」展も
同時開催されています。
Jotokai.jpg

この展覧会「デザインあ展」のチケットでは見ることができません。
美術館でチケットを買います。観覧料一般1,000円

「上杜会」を「じょうとかい」って読めるようになったのは、
昨年11月に稲沢市荻須記念美術館の特別展「牛島憲之展」を見に行った時、
荻須高徳と牛島憲之が東京美術学校の同期で、同級生たちで結成した
「上杜会」で作品を発表してたって知ってから。

それまで‥‥この展覧会、豊田市美術館に巡回する前、
神戸市立小磯良平記念館で開催されているんですが、
(2020年10月3日~12月13日)
そのポスターを岐阜県美術館で見たと思うんですよ、
岐阜県美術館この展覧会に彼らの先生だった長原孝太郎の作品
《明星》を出してるので。
‥‥杜と社を間違えて、上社会? 上流社会のこと?? なーんて(^^;>

「上杜会(じょうとかい)」とは、
東京美術学校(現東京藝術大学)西洋画科を昭和2年(1927)に卒業した
約40名の若者によって結成された同期会。(中途退学者含む)
母校がある「上野の杜」ちなんで名付けられました。
牛島憲之、小磯良平、荻須高徳と3名の文化勲章受章者を出し、
猪熊弦一郎、岡田謙三、山口長男、小堀四郎‥‥
この人も上杜会なの! って驚くようなすごいメンバーです。

Jotokai-2.jpg

最初に、昭和2年東京美術学校西洋画科卒業写真があり、

序章として、
東京美術学校西洋画科の教授陣の絵が展示されています。
藤島武二、岡田三郎助、和田英作、小林萬吾、長原孝太郎
全員、白馬会創立会員と、こちらもすごいメンバー!

当時の東京美術学校は、西洋美術においては
東アジアで最高峰の教育機関だったとのこと。

そこへ1922(大正11)年4月に入学した学生たちは、

1年生で、長原孝太郎に石膏デッサンを
2年生で、小林萬吾に人体デッサン、
3年生で、藤島武二、岡田三郎助、和田英作の教室に分かれて学びました。


入学の翌年、1923年9月1日、関東大震災発生。
夏休み期間であり、地方出身者の多くは直接の被害を免れましたが、
美校の校舎が被災者の避難所となり、2ヶ月の休校を余儀なくされます。
混乱する市中で、個性的な風体の美校の教授や学生の中には
市民から暴力を振るわれた者や、家屋ごとそれまでの作品を焼失したり、
家族が職を失ったりと、当時二十歳前後の若者に大きな影響が
あったと思われます。


「美校始まって以来の秀才揃い」と称された1922年度入学生、
学生時代に帝展に入選する者が現れます。

最も早く帝展に入選したのが、永田一脩と中西利雄で、
中西利雄の水彩画《盛夏麗日風景》1924年 が展示されていました
(前期2月7日までの展示)

それに触発されて帝展に挑戦する同級生が続出

小磯良平《T嬢の像》1926年 は、第7回帝展で特選となった作品
いかにも小磯良平らしい絵で、すごく上手い!

矢田清四郎《足拭く女》1926年 は初入選作

同級生のそんな活躍を見たら、ライバル意識を持たざるを得ませんね。
学生時代の同級生との交流は大きいです。
卒業の1年前に、美校中退者や留学生を含めた同級生44人によって
「上杜会」が結成されます。


第1章 1927-1936

1927(昭和2)年3月東京美術学校卒業
「大正」から「昭和」への改元は1926年12月25日なので、
彼らは昭和になって初めての卒業生ということになります。

卒業後半年後に早くも上杜会第1回展を開催。
会員も驚く程の盛況であったそう。


戦前に10名以上がヨーロッパ留学を果たします。
美校を中退して留学した岡田謙三と高野二三男

第1回上杜展の直後に渡仏した荻須高徳と山口長男、
少し遅れて小磯良平、中西利雄、
その翌年から荻野暎彦、小堀四郎、藤岡一、加山四郎、顔水龍
遅れて猪熊弦一郎、ひとりイギリスを目指した橋口康雄

当時は船で2ヶ月かかるヨーロッパ、異国の地で
同級生たちとの交流は大きな支えになったと思われます。

高野二三男《ヴァイオリンのある静物(コンポジション)》1937年頃
(チラシ裏面右上)いかにもパリって洒落た絵!

荻須高徳《広告のある家“パリの屋根の下”》1931年
佐伯祐三のような暗く不安定なパリの街角の絵 から、
《パリ、モンマルトルの旧役場》1935-36年
荻須らしい(?)穏やかでカッチリしたパリの街角の絵になっていきます。

山口長男《室内》1930年
パリで最新の美術潮流を知ることもできたんだろうなと。


一方、プロレタリア運動に呼応した
永田一脩(ながた かずなが)《『プラウダ』を持つ蔵原惟人》1928年
(チラシ裏面上中)
蔵原惟人はプロレタリア芸術運動の理論的中心人物
浜名湖に旅行した際、宿泊先で、ロシアの上着ルバシカを着て、
ソビエトの共産党機関紙『プラウダ』を手に
モデルになってもらったそう。

大月源二《告別》1929年
1929年3月、労働農産党の代議士・山本宣治が右翼テロリストに刺殺された。
棺を担ぐ葬列を描いた作品

大月源二の風刺漫画も展示されていました。

上杜会は各々の自由な意思を尊重し干渉しない関係性を
モットーにしていたそう。

染木煦(そめき あつし)《パラオの少女》1934年
当時日本の統治下にあった南洋群島へ渡航して描いた絵
染木は南洋の民具蒐集なども行ったそう。

また、東京から離れて教職に就いた者や、
佐賀で療養生活を続けた犬丸順衛

彼らにとっては上杜会が東京で作品を発表する貴重な機会で、
上杜会では在野作家も帝展作家も地方在住者も皆同じ立ち位置で
作品の良し悪しを仲間たちに忌憚なく評されたってことで、
それぞれの場所で制作を続ける大きな励みになっていたんだろうなと。

犬丸順衛(いぬまる じゅんえい)は1939年、35歳で亡くなったそうですね。
美校最終学年に父が亡くなった時に、亡き顔を描いた
《永眠―父市郎次》と、《女の横顔》が展示されていました。
図録には、彼に届いた同級生たちからのハガキも多く収録されていて、
すごくいいクラスだったんだなと。

牛島憲之《秋川》1934年 (チラシ裏面 左下)
稲沢市荻須記念美術館の「牛島憲之展」で、
戦前の明るい色斑で描かれている作品、面白いなって
見たんですけど、この《秋川》良かった!

矢田清四郎《黒扇を持てる女》1932年 のインパクト!

チラシ表面に使われている
小磯良平《着物の女》1936年 いいなぁ!


第2章 1937-1945

昭和とともに画家としての歩みを始めた彼ら
否応なしに戦争に巻き込まれていくことになります。

小磯良平の兵士を描いたスケッチや
《日緬条約調印図》1944年
確かな描写力でその場の雰囲気が伝わってきます。

岡田謙三と荻須高徳が同じ場所で同じ風景を描いた
《ラマ寺》と《熱河喇嘛廟》1941年
が並んでいたのも面白かった。

戦争画を描かなかった小堀四郎や牛島憲之らは、
戦時中配給制となった絵具などの入手が困難になったりと
絵を描ける環境が徐々に失われていったと。

インパールで戦死した石井清夫、3度応召した矢田清四郎
空襲でアトリエと作品を焼失した藤岡一や小磯良平

戦争が終わって、疎開先で描いたという
小堀四郎《冬の花束》1946年 (チラシ裏面下中)
絵を描ける解放感が溢れていると


第3章 1946-1994

画家たちにとっても長い苦難の戦争が終わって、
上杜会の仲間たちの年齢は40代後半、
洋画家としてベテランの域に達していました。

そんな彼らは、戦後の新しい美術の流れに身を置くことになります。

荻須高徳は1948年、日本人画家として最も早くパリへ戻ります。
戦後の抽象絵画の流行に流されず、パリの街並みを描き続けます。

新天地を求めてアメリカを目指したのが、岡田謙三と猪熊弦一郎。
新しい芸術の都ニューヨークで個性あふれる抽象画の途へ進みます。

1960年以降、上杜会展はしばらく中断していたが、
1976年の50周年記念展を機に1996年(平成6)年まで、
毎年開催されたとのこと。
1978年には留学生だった顔水龍の協力で台湾での
上杜会巡回展も実現したそう。


同期に美校を卒業した上杜会メンバーの、千差万別な画業。
彼らが「昭和」の時代の洋画壇をどう生きたか、
昭和の洋画壇を知ることができましたし、

44人の同級生の中から、こんなに多くの有名な画家が! って驚くけど、
私の知らない画家も多いわけで、その人たちもそれぞれ
地元の画壇を牽引したりと一人一人の生きざまがあって‥‥
そんなことも感慨にふけってしまいます。

そして、彼らの友情は羨ましい。

図録買いました。2,300円(税込)
Jotokai-(1).jpg
ブログ書くにあたり、参考にさせていただきました。

裏表紙に卒業写真が使われています。
Jotokai-(2).jpg

豊田市美術館: https://www.museum.toyota.aichi.jp/

--オマケ--
中日新聞 2021年1月8日(夕刊)の記事
ライバルと磨いた個性
「わが青春の上杜会―昭和を生きた洋画家たち」展に寄せて 
稲沢市荻須記念美術館長 山田美佐子
chunichi2021-1-8.jpg
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