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愛知県美術館「GENKYO 横尾忠則」展 [美術]

3月11日(木)に愛知県美術館へ行きました。

「GENKYO 横尾忠則
 原郷から幻境へ、そして現況は?」をやっています。
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 横尾忠則(1936年生まれ)は、1960年代初頭よりグラフィック・デザイナー、イラストレーターとして活動を開始し、日本の土俗的なモティーフとポップ・アート的な感覚を融合させた独自の表現で注目されました。1980年代には「デザイナー」から「画家・芸術家」へと活動領域を移し、斬新なテーマと表現による作品を次々と発表して、現代美術家としても高い評価を得ています。
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私がデザイナーやイラストレーターに憧れて、デザインを学んでいた
70年代後半、横尾忠則はもう別格の存在でした。
(まぁ、私は正直あまり好きではなかったんですが)
その横尾忠則が画家宣言をして、なんだかドロドロした絵を
大量に描いていくようになってからは、
私はふーーん‥‥みたいなカンジだったんですけど。
この展覧会も、私が愛知県美術館友の会に入っていて、
タダで見られるのでなかったら、見に行かなかったかも。

友の会会員限定の「おうちでリモート特別鑑賞会」
会員に向けて、南雄介館長が展示室で3時間に及ぶ解説をされたのを
(南館長がずっと温めてきた展覧会だそうで、
とても熱心に解説してくださいました)
拝戸副館長が録画、約30分×4章(長い!!)に編集した動画を見ることができ、
この、暴力的なまでの展示量に圧倒された展覧会をふり返り、
横尾忠則についてあらためて詳しく知ることができました。


最初の部屋では、

第1章 原郷から 1936-1960

[誕生 受胎された霊感]
フラ・アンジェリコの受胎告知をベースにした
《受胎された霊感》1991年 や、
《ぼくはヘレン・ケラー女史と同じ6月27日に父の弟夫婦の間に生まれて、横尾家に養子として迎えられた。養父母はぼくを橋の下で拾ってきたと言った。小さい頃から星空を仰ぎながらぼくはぼくの運命についていつも空想していた。そして星のように点滅するホタルに自分を譬えた。見えない守護霊と子の年のネズミがぼくの長い航海の伴侶であることをぼくは知っている。》2001年 という長~いタイトルの作品―タイトルで横尾忠則の生い立ちがわかってしまいますね―があり、続いて

[戦争と戦後 少年時代]
5歳頃に絵本を模写したという絵《武蔵と小次郎》‥‥上手い!

《思い出と現実の一致》1998年(チラシ中面左から2番目)
この少年は横尾さんなのかな? 夢と記憶がごっちゃになったような
不思議で懐かしい雰囲気の絵。

《1945年、夏》1996年
少年時代の記憶をモチーフとした川で小鮒を取っている絵、
でもその背景には真っ赤な空にキノコ雲が描かれています。

そして、焼野原になった街に錆びたトタン板や一斗缶が組み合わされた
《戦後》1985年(チラシ中面左上)
陶板画だそう(大塚国際美術館で展示されている作品のような)
展示方法(額装は磯崎新だそう)含めてインパクトありました。


続く部屋では、
[織物祭 西脇時代]
高校時代に描いた油絵や、高校の文化祭のポスター、
コンテストで選ばれたという織物祭のポスターが展示されていました。

[デザイナー誕生 神戸時代]
神戸新聞時代にデザインしたポスターや、
自身の結婚式をモチーフにした《白浜―喜びも悲しみも幾歳月》2006年
顔とかは写真をコラージュしてるのかな? 何故に2枚組??
横尾さんが実際に新婚旅行へ行ったのは白浜ではなく、
有馬温泉?だったとか。


第2章 越境 1960-1981

[デザインセンターの銀座]
東京へ出て、デザインセンターへ入社
クライアントや歌手からも不評だったという
星条旗をモチーフにデザインしたポスターなど

[アングラの新宿]
アングラ! 懐かしい言葉。1960年代後半、
それまでの主流文化に異議申し立てをするような反逆的・前衛的な潮流
「アングラ」の旗手として、横尾忠則は世界的な評価を獲得します。
寺山修司の「天井桟敷」、唐十郎の「状況劇場」
暗黒舞踏の土方巽などのポスターが並んでます。
日本の土俗的なモチーフがポップに、サイケデリックに表現されてます。
モダンデザインのシンプル、スマートとは全く逆だったのが
かえって新鮮でした。

[責場 プロセスの展示]
国際的な版画展で大賞を取った3枚組の作品《責場》1968年
1969年第6回パリ青年ビエンナーレ展の版画部門個人賞受賞作品
あぶな絵のような図柄が、版画の版を重ねるというプロセスを
見せているけど、最終的に完成するであろう図柄はないという。

《葬列Ⅰ》1969-1985年 は、そのプロセスを
アクリル板を重ねることで見せています。

次の部屋へ進むと、

[活動の広がり 横尾忠則というメディア]
アニメーションが2点上映されていて
いかにも60年代って、ポップで素朴?なところが面白かった。

横尾忠則が主演(監督は大島渚)した映画のポスター
《新宿泥棒日記(創造社)》1968年

大阪万博のせんい館のポスターもありました。
せんい館の建築途中のような建物は横尾忠則の提案なんですね。
あれはインパクトあって面白かった。

横尾忠則が表紙をデザインした『週刊少年マガジン』が9冊
これはスゴイとしか‥‥これを採用した側もスゴイなぁ!
1970年、「巨人の星」や「あしたのジョー」などが連載されてた
少年マガジンの黄金期だったそう。

[ピンクガールズ 無作法な娘たち]
これらの下品な女性のシリーズ、いかにも横尾忠則だ! って。

[アンリ・ウッソー・ヨコオ]
アンリ・ルソーの絵のパロディ。面白~い

[三島由紀夫 終りの美学]
私の大学生時代(70年代後半)、横尾忠則はもう
イラストレーターとしてレジェンドな存在だったんですが、
それは三島由紀夫と交流があったってことも大きいと思います。
国立劇場の《通し狂言 椿説弓張月》のポスター 1969年
大学生の頃、横尾忠則の講演を聞いたんですが、
このポスターについて、横尾さんは
これは全て三島由紀夫氏が、ここにこういう場面を描くって、
細かく指示してきて、僕はそのまま描いただけなんだけど、
完成したポスターを「演劇ポスターの最高傑作」と褒めてくれて
いいかげんなものだと思った とかって話されたのを覚えてます。

《男の死あるいは三島由紀夫とR.ワーグナーの肖像》1983年
《死の愛》1994年 は三島由紀夫の死後に描かれた作品

[ニューヨークとインド]
1967年にニューヨーク近代美術館(MoMA)に
作品がパーマネントコレクションされ、
横尾忠則は初めてに―ヨークへ行き、4ヵ月ほど滞在します。
当時のニューヨークは、サイケデリック、ヒッピーカルチャーの世界

《WORD AND IMAGE》1968年
ニューヨーク近代美術館の展覧会のポスター

これをモチーフにした饅頭がショップで売られてたので、
買っちゃいました。756円(税込)
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すごいインパクトあります!
でも中身はいたってフツーのこし餡まんじゅうです。
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ヒッピーカルチャーやビートルズに影響を受けて、
横尾さんはインドへ向かいます。

横尾忠則っていうとインドとか、精神世界って
イメージなんですけど、このあたり、私がリアルタイムで
横尾忠則の活動を見てたからかな。

[ワンダーランド 楽園を索めて]
《Wonderland》1971年 このポスターあちこちで見た気がする。


第3章 幻境 1981-2000

[いわゆる画家宣言 画家の誕生]
1980年にニューヨークでピカソの大回顧展に衝撃を受け、
横尾はグラフィック・デザインから絵画へと活動領域を移します。

[森・肉体・神話]
鏡が使われた作品とか、

[切り裂かれたカンヴァス]
赤いネオンがピカピカしてる《赤い叫び》1983年

[滝 それは夢の中からやってきた]
滝を描いた連作もあったけど、なにより
《滝のインスタレーション》がスゴイ!!
滝のポストカードが13,000枚! それが並んでいるだけでもスゴイのに、
床が鏡なので、さらに多く、無限に並んでいるように見える。
鏡になった床の上を歩いていくこともできました。

[今ハ昔]
少年時代に読んだ物語などをモチーフにした絵
《実験報告》1996年
絵の中に番号が描かれていて、物語を想像したりします。

[赤の魔宮]
真っ赤な壁のコーナーに赤い絵が展示されています。強烈!!
天才ハ
  忘レタ
   コロニ
  ヤッテ
     狂ゥ
」と書かれている
《天の足音》1996年

[彼岸へ 懐かしい死者たち]
故郷の線路と、亡くなった高校時代の友人たちの顔が描かれた
《友の不在を思う》2003年


第4章 現況 2000-現在

[Y字路]
Y字路を描いた絵がこれでもかって並んでます。
横尾の郷里・西脇で、Y字路(三叉路)の角にあった模型屋が
取り壊された跡をたまたま写真に撮ったことから始まったと。
なんか不思議に懐かしいような。
自分はどちらの道を行くのか? って考えさせられたり。

ほとんどがひと気のない夜で、夢の中のような雰囲気もある中で、
1点だけちょっとポップで楽しげだった絵が
《思い出劇場》2007年
山梨県の石和温泉に行った時のエピソードが詰め込まれてます。
横尾はここで体調を崩して救急車で運ばれたそう。
山梨県美術館にはミレーの種まく人の影が映ってたり、
三島由紀夫文学館もあるんですね。

[反復と変奏]
横尾さんの絵は、同じようなモチーフが「反復と変奏」のように
繰り返して描かれていますね。
昔の「ピンクガールズ」の絵を反復・変奏して描いたり、

《月光の街》ⅠからⅣは、愛知県美術館所蔵の
ポール・デルヴォー《こだま(あるいは「街路の神秘」)》が
モトになってるじゃないですか!!
(コレクション展で見られるかなって思ったけど、
今は横浜美術館の「トライアローグ」展に出てるって)

今回の展覧会のチラシに使われている《愛のアラベスク》2012年
縦長の絵を回転させて使ってるんだ!

チラシを開いたところ
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絵の向きはこう!
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同じような構図の絵が隣にあって、あ、これも連作なんだと。
無声映画のスター、ルドルフ・ヴァレンティノの遺作「熱砂の舞」(1926年)におけるヴァレンティノとヴィルマ・バンキーの抱擁シーンを、トニー・カーティスとナタリー・ウッドが再現した写真(1963年)に基づく連作。抽象と具象、様々なスタイルのハイブリッド。(展覧会公式サイトの絵の説明)

この絵だけでは抱擁シーンってわからなかったけど、
隣の絵はもう少し具象的に描かれてた。


次の展示室から撮影可!
[Y字路の彼方へ 新たなる冒険]
左から、《ジュール・ヴェルヌの海》2006年
《城崎幻想》2006年
下呂温泉を描いたとかいう《金の湯》2005年
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[肖像図鑑]
瀬戸内寂聴が出会った、いまは亡き文豪・芸術家の思い出を綴った
エッセイ「奇縁まんだら」の挿絵として描いた肖像画
とにかく膨大な数(375点!!)
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いろんな様式で描かれています。
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[謎の女]
浴場を描いた絵などが展示された迷路のような中を進んでいった
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一番奥に展示されていたのが
顔をキャベツやトイレットペーパーで隠された女性
《キャベツの女》2017年
《トイレットペーパーと女》2017年
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[原郷の森]
大きな自画像《T+Y自画像》2018年
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左の大きな絵は《追憶あれこれ》2019年
少年時代の自分やターザンや、古代シュメールの王ギルガメッシュなど、
夢の中のようなラフなタッチで描かれています。
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大きな絵の周囲に、猫を描いた作品が多く展示されています。
亡くなった愛猫を描いた[タマ、帰っておいで]シリーズ。

横尾さんのタマへの愛情が感じられて、猫好きはたまりません。
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横尾さんが、タマの絵はアート作品として描いたものではないので、
展示するならこんな風にしてほしいってことで、
こういう展示になったそう。

展覧会の最後の部屋の
《寒山拾得2020》 
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昨年の国立新美術館で開催された
(コロナのため、当初2020年3月11日(水)~6月1日(月)の会期が、
2020年6月24日(水)~8月24日(月)に変更になりました)
「古典×現代2020」展に出品された絵ですね。
私、たまたま東京へ行く用事があって、7月10日(金)に見てきました。
横尾忠則と曽我蕭白のコラボで展示してありました。
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展示室を出たラウンジの窓にこれでもかって貼られているのは、
新型コロナウィルスの感染拡大を受け、2020年5月から始めた
過去の作品や写真にマスクをコラージュして
ツイッター等で発信する「WITH CORONA」シリーズ
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これも横尾忠則の「反復と変奏」なのかな。
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展覧会に出てた作品が素材になってるのもあって、
あの作品だ、って思いかえしたり
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今も毎日発信されているそう。
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横尾さん、1936年生まれで今84歳、その歳で
ツイッター等で発信される、枠にとらわれない創造力、
パワーがすごいと、あらためて感心しました。


この展覧会、愛知県美術館で4月11日(日)まで開催された後、
東京都現代美術館 2021年7月17日(土)~10月17日(日)
大分県立美術館 2021年12月4日(土)~2022年1月23日(日)
へ巡回予定だそう。

愛知県美術館: https://www-art.aac.pref.aichi.jp/
展覧会公式サイト:https://genkyo-tadanoriyokoo.exhibit.jp/

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私が持ってる横尾忠則の本
「未完への脱走」昭和45年11月28日第一刷発行 講談社
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あちこちに書いたエッセイや対談などをまとめた本
古本屋で見つけて買ったけど、実はあまり読んでない(^^;

「方舟から一羽の鳩が」昭和52年11月20日第一刷り発行 講談社
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絵や音楽、インドや宗教、その他についてのエッセイ集
これも古本屋で見つけて買いました。


筒井康隆・作 横尾忠則・畫「美藝公」
昭和56年2月20日第一刷 文藝春秋
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これは完全に横尾忠則の絵に魅かれて買いました。
(実は小説の方は最後まで読んでなかった。今回初めてちゃんと読んだ(^^;
小説の中に出てくる映画のポスター14枚を
横尾忠則が描いてます!
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横尾忠則「タマ、帰っておいで」
「発売2週間で重版となり、画集というジャンルとしては異例の速い売れを記録した」(Wikipediaより)
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