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岐阜県現代陶芸美術館「小村雪岱スタイル」展 [美術]

1月19日(日)岐阜県現代陶芸美術館へ行きました。

「小村雪岱スタイル
 江戸の粋から東京モダンへ」をやっています。
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小村雪岱、近年展覧会が開催されていたりして
名前は知っていましたが、江戸の浮世絵師かしら?
なんてくらいの認識だったんですよね。

 大正から昭和初期にかけて装幀、挿絵、舞台美術など多岐にわたるジャンルに新風を吹き込み、大衆を魅了した小村雪岱(1887-1940)。いまその再評価の機運が高まっています。(チラシ裏面の文より)

私は岐阜県美術館の後援会員になっているので、
岐阜県現代陶芸美術館の展覧会も企画展ごとに1回ずつ
無料で見ることができるんです。なので、前回来た時
(ブログに記事が書けておりませんが、去年10月27日に
「華めく洋食器 大倉陶園100年の歴史と文化」を見ました。
 皇室のお誂え洋食器など、とても素敵だった!)
チラシを見て、あら今度は陶芸じゃないんだ。でも面白そう‥‥と。
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もちろん見るつもりでいましたが、目覚まし代わりにつけている
NHKラジオ「橋本麻里の美術館で会いましょう」の
新年早々の放送で最初に紹介されたり、1月12日の
日曜美術館アートシーンで紹介されたりして、
これは早く行かなくては! と。

1月19日(日)は、学芸員によるギャラリートークが2時からあると知り、
その時間を目指して着いたのが20分程前。
展示室前の記念撮影コーナー
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会員証を見せて、チケットをもらい、時間まで展示室を見てて、
2時になったので入口へ戻ると、
いつも閑散としているこの美術館(失礼)にしては
意外なほどの鑑賞者が集まってました。

まずは肉筆画、木版画の展示から
最初に展示されていた《柳橋》(チラシ裏面2段目)
雪岱のこの大きさの肉筆画はとても希少なんだそう。

《こぼれ松葉》落ちてくる松葉を見上げている女性が
墨だけで描かれている掛軸は、極限まで省略された絵と余白、
線の繊細さがとても素敵。
地面に散った松葉と数羽の青い小鳥だけの《碧鳥》も
詩情っていうか、すごくカワイイ!

木版画は数点を除き、ほとんどが没後に刷られたものとの
ことですが、省略や余白を生かした雪岱の絵は、
木版画という技法、とても合ってます。

チラシのメインビジュアルになっている《青柳》や、
ポスターに使われていた《雪の朝》(2つ折りチラシ中面右下)
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どちらも人は描かれておらず、端正で静謐な画面の中、
どこか物語を感じさせるような情緒が素敵。

雪岱を一躍有名にしたのが、泉鏡花『日本橋』の装幀
大正3年(1914)雪岱28歳の時。これ以降、鏡花の本をはじめ
人気装幀家として、多くの作家の本の装幀をします。

表紙だけでなく、見返しにも気を配っていて、
雪岱が装幀すると売れ行きがいいと言われたのがわかります。

雪岱の前に鏡花の本の装幀をしていた鏑木清方は、
挿絵画家からスタートして、美人画、日本画へと進んだ人ですが、
雪岱はまず日本画の基礎を東京美術学校(現東京藝術大学)で
下村観山に学び、卒業後に国華社で古画の模写に従事したりしたのち、
装幀や挿絵へと進んだと。

東京美術学校時代の写生や模写、国華社時代の古画の模写が
展示されていましたが、確かな技術を持った人なんだなぁと。

発足まもない資生堂の意匠部で、商品や広告のデザインにも携わり、
「資生堂書体」を作ったりもしたそう。

泉鏡花の装幀で、いわば仕事を奪ってしまったともいえる
鏑木清方ですが、ずっと親しい関係が続いていたそうで、
清方の随筆集『銀砂子』の装幀を雪岱に依頼しているし、
清方の口絵で雪岱が装幀をした泉鏡花の本もありました。

そして大人気だったという雪岱の挿絵。
図録の裏表紙にも使われている《おせん 雨》は、
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朝日新聞に連載された邦枝完二の小説の挿絵を
雪岱が大きく描きあらためたものを木版画にしたもの。
傘の重なりの間に、逃げる黒頭巾のおせんがチラリと
見えるのが、なんとも粋というか、
デザインセンス溢れる画面が素敵。

矢田挿雲『忠臣蔵』や、土師清二『旗本伝法』の挿絵など
(私の全く知らない小説家ばかりですが)
江戸の風俗の情緒あふれる絵が、モノクロの中に、
黒の塗りつぶしがとても効果的に使われていたりして、
「雪岱調」と呼ばれた挿絵が大人気だったのがわかります。

挿絵、装幀で多忙だった雪岱ですが、依頼を受けて
(頼まれるとつい引き受けてしまう人の好さもあったみたい)
舞台装置の原画も描いていたそうで、
中里介山『大菩薩峠』や、坪内逍遥『桐一葉』の舞台装置原画が
展示されていました。省略が特徴的な雪岱の絵と違い、
ものすごく細かく描かれていて、これを元に作られた大道具の装置が
今も残っていたりするとか。雪岱の肉筆画は希少で貴重だけど、
もしかしたら、舞台装置の原画がまだ出てくるかもって話を聞きました。

多岐にわたる仕事で多忙だった雪岱。過労からか、
昭和15年(1940)、脳溢血で倒れて亡くなります。54歳。

江戸の粋を受け止め、東京のモダンを体現した『意匠の天才』
(チラシの文より)だったんですね。

「昭和の春信」と称された雪岱
展覧会では、鈴木春信(1725?~1770)の錦絵も展示されていました。
歌麿の美人画とちょっと違って上品でたおやかな印象を受けました。

そして、「江戸の粋から東京モダン」というセンスに溢れた工芸作品や、
雪岱のオマージュとして制作された現代作家の作品の展示もありました。

この展覧会の多くの出品作が、以前にここ
岐阜県現代陶芸美術館でも開催された
「超絶技巧!明治工芸の粋」展
 2015年9月12日(土)~2015年12月6日(日)や、
続編の「驚異の超絶技巧!明治工芸から現代アートへ」展
 2018年6月30日(土)~8月26日(日)の
(どちらも私見に行って、すごく良くて図録まで買ってるのに、
 ブログに感想が書けておりません)
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清水三年坂美術館の所蔵品で、今回の展覧会でも
所蔵品の中(個人蔵のものもあり)から
柴田是真の漆芸や、並河靖之や濤川惣助の七宝、
櫛や笄(こうがい)、簪(かんざし)、帯留なども展示されてて、
超絶技巧とデザイン感覚にため息がでました。

「超絶技巧!」展で驚いた安藤緑山のリアルな牙彫。
今回、緑山の次男夫人が結婚祝いにもらったという帯留
《苺牙彫帯留》(この作品のみ三井記念美術館蔵)が出てて、
苺のリアルさと可愛らしさがやっぱりスゴイ!

《柳鷺図刺繍屏風》の大きさと超絶技巧も驚きです。


最後の部屋は撮影可!! 現代作家の作品だけでなく、
雪岱の肉筆画もさりげなく(?)展示されているのが嬉しい。

小村雪岱《赤とんぼ》昭和12年(1937)頃
暖簾から顔だけ出す女性が見ているのは、赤とんぼ!
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厚さ数ミリにまで楠を彫り込んで作られた
松本涼《枯薔薇》2019年 と、《折鶴》2019年
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小村雪岱《写生 ヤマユリ》と、
松本涼《枯山百合》2019年
百合の雄しべ雌しべ以外は一本造りという超絶技巧!
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花鋏は、漆芸家・若宮隆志がプロデュースする輪島の漆芸職人集団
「彦十蒔絵」が作った見立漆器「鋏」2019年

彦十蒔絵《鉄瓶 鉄錆塗》2015~2019年
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鉄瓶が4つ並んでいるのではなく、本物は一番左のみで、
右にいくに従い、その鉄瓶の錆びて朽ちていく姿が漆塗りで
表現されているのだそう。
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竹の網組で作られた作品
本田聖流《輪廻》2019年
網代編みという技法で作られたメビウスの帯のような「輪廻」
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本田聖流《プロミネンス》2019年
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臼井良平《目薬と手鏡》2019年
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今回の展覧会のメインビジュアルにも使われている
雪岱《青柳》の「見立て」として制作された作品。
鼓と三味線のかわりに、
ガラスでできた小さな目薬と手鏡が置かれてます。
臼井良平さんは
「驚異の超絶技巧!明治工芸から現代アートへ」展で、
ガラスでできたペットボトルや水の入ったビニール袋が
展示されてましたね。


小村雪岱のモダンなデザイン感覚、とても気に入りました!
学芸員の説明を聞けたのも良かった。
ギャラリートークの後、もう一度じっくり展示を見て、

図録(2,750円)とクリアファイル(330円)を購入。
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クリアファイルはいくつか種類があって迷ったけど、
団扇絵の原画ではないかという《月に美人》を買いました。
学芸員の方の説明で、うっすらと描かれた月に気付きました。
掛軸の仕立ての布も素敵。
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クリアファイルのもう片面は、
『小村雪岱画集』表紙絵 「柳に梅花図帯」より
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「小村雪岱スタイル」展
岐阜県現代陶芸美術館で、2月16日(日)まで開催された後、

(山口展)山口県立美術館 2020年10月30日~2021年1月3日
(東京展)三井記念美術館 2021年2月6日~4月18日
(富山展)富山県水墨美術館 2021年4月下旬~6月(予定)
と巡回するそう(巡回展の間が結構空いてますねー)
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