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中村文則『何もかも憂鬱な夜に』 [本]

先日、中村文則の『世界の果て』を読みました。
感想はこちら:http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2009-09-23

ここまで読んだら、当然(?)、この人の本でまだ読んでいない
『何もかも憂鬱な夜に』も読まないとと、図書館から借りてきました。
しかし「何もかも憂鬱」かぁ‥‥いかにも中村文則らしい、暗く湿ったタイトルだなぁ。

何もかも憂鬱な夜に

何もかも憂鬱な夜に

  • 作者: 中村 文則
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2009/03
  • メディア: 単行本


中村文則の本はいつも装丁がいいのだけど、この本も、
雨に濡れたガラスから薄暗い景色が見える写真の表紙に、
ちょっと古風な字体でタイトルが配置されていて、またいい。

出だし、赤い小鳥と蛇のエピソードや、主人公がなぜか最初の記憶だと思っている
海と死んだ女の人の情景が、いつものキビキビとした文体で語られていて、
あぁ、暗く、まとわりつく雨のような疲労感(憂鬱)に満ちたこの人の世界だなぁと。

でも、この作品の読後感は、この人の作品にしては、救いがあるというか、
ちょっと安易じゃない?‥‥なんて思いながら‥‥泣けました。
暗い世界が少し明るくなりつつあるような、このラスト。私は嫌いではないです。

以下、ネタバレを含みます。


主人公は孤児で、施設で育ち、刑務官になる。
刑務官というのは、死刑を執行する任務もあるわけで、
主人公は勤務9年でまだ立ち会ったことはないのだが、
命じられれば、人を殺さなければならない。

死刑は当然だと思っていても、すっかり改心したような受刑者と毎日接していると、
何で今さら殺さなければいけないのかという気持ちも湧いてくるし、
刑務官は遺族ではないので、死刑囚はあくまで他人にすぎない。
そして、いざ執行という時に、死刑囚の「神様」という叫び声を聞いても、
それでも死刑を執行しなければならないのが刑務官であるわけで。

また、要領が悪く、臆病で、刑務所の中でいじめられたりしているが、
真面目に雑役を勤めている強姦犯。仮出所の日が近づいていたある日、
他の受刑者からの密書を預かるという重要な規律違反を見つける。
主人公はあえて、その密書を破り捨てて、上には報告しない。
しかし彼は仮出所してすぐに強姦事件を起こして、逮捕されてくる。
僕は待機室で、視野が狭く、どうしようもないほど、狭くなり、吐き気を覚え、トイレで吐いた。

倫理や道徳から遠く離れて、強姦という異常な興奮だけのために生きており、
真面目な服役ぶりは演技にすぎなかった。
「あなたのおかげで最後に一人!」などという犯人を前にした主人公の怒り。

そんな、罪と罰、死刑について、人間とは、倫理や道徳などを考えさせられながら、
物語は進む。

自殺した友人、友人の死から疎遠になってしまった恋人、施設での恩人
乳児院で別れたまま、生死もわからない弟のこと‥‥

刑務官として担当している二十歳の未決死刑囚。
彼は十八歳の時、たまたま通りかかった幸せな新婚の妻の後をつけて
マンションに入り込み、包丁で刺して殺害し、帰ってきた夫も刺殺した。
残虐極まりない犯罪。遺族もマスコミも死刑を要求している。

確かに、こんな残虐なニュースを聞くと、犯人に強い怒りを覚える。
何の落ち度も無く殺された幸せな夫婦の無念を思うと、
未成年とか、育った環境が劣悪とかいうのも言い訳にはならない、
死刑は当然でしょうという気持ちになる。

‥‥しかし、主人公は、施設での恩人の言葉を思い出し、

お前は、もっと色んなことを知るべきだ。お前は知らなかったんだ。色々なことを。どれだけ素晴らしいものがあるのか、どれだけ奇麗なものが、ここにあるのか。お前は知るべきだ。命は使うものなんだ。

と、彼に控訴を勧める。

ちょっと甘すぎない?‥‥と思いつつ、泣けました。
タグ:中村文則
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コメント 3

たまのママ

装丁が、本の内容に合ってますね。
しーちゃんの解説を読んで・・・
内容は重たいけど、理解しがたいけど、毎日毎日服役囚と接していたら、そこでのいいところしか見えなくなってしまうんじゃないか??ここに来た本当の意味は何だったのか??と、自分を見失ってしまいそうになるでしょうね。でもここでは感情を抑えて業務を坦々とこなさないといけない。刑務官って、難しい業務なんだなぁと感じました。
考えさせられる本ですね。
by たまのママ (2009-10-28 16:56) 

しーちゃん

たまのママさん、コメントありがとうございます。この人の本は内容が暗くて重いんですよね。図書館でもあまり人気がないのか、本がきれいなままなんです。でも私はなんかこの暗さが結構好きみたいです。
by しーちゃん (2009-10-29 00:39) 

しーちゃん

スーさん、nice! ありがとうございます。
by しーちゃん (2009-10-29 00:40) 

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