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中村文則『悪と仮面のルール』 [本]

中村文則の『悪と仮面のルール』図書館で借りて読み終わりました。

悪と仮面のルール (100周年書き下ろし)

悪と仮面のルール (100周年書き下ろし)

  • 作者: 中村 文則
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/06/30
  • メディア: 単行本


今年の6月に書き下ろしで出版された単行本。
先日行った時に、図書館の棚にあったので借りてきました。

私は中村文則の小説が好きというわけではないと思っているのですが、
今まで出版された本は、この本の前の『掏摸[スリ]』以外は全て読みました。
(それって立派なファン?)ただし、全て図書館の本ですが。
この人の本、わりと最新刊でも図書館の棚にあるんです。

で、あ、中村文則の新刊だと本を手に取った時に、ちょっと違和感が。
この人の本はいつも装丁がとても美しいんだけど、
こんな具体的なイラストが表紙に使われているのは初めてというか。
いつもわりと抽象的なイメージの表紙だったので。

この人の小説、いつも書き出しの文章がとてもいいんですが、
今回の最初の「刑事の日記(紙片)」
もってまわったような表現だけど、ミステリーっぽい展開になってるのね、
それも面白そうかもしれないと思ったんですが‥‥

以下、ネタバレを含むので、
これから読もうと思っている方は、ご注意ください。



「今から、お前の人生において重要なことを話す」
 十一歳の時、父が僕を書斎に呼んでそう言った。

で始まる父の話には、ちょっと引いてしまったというか‥‥

「お前は私に手により、一つの『邪』になる。悪の欠片といってもいい」
それから父は自分の『邪』の家系についての説明を始めるのだが――
うーーん、なんかあんまりリアリティがなくて、なんだかマンガの原作のような
セリフ‥‥あ、私はマンガは大好きなので、マンガっぽいのがダメというわけではなくて、
私はこの人の小説の、ちょっと古い文学的なところ、
短く緊張感のある地の文章のリズムが好きなんですよね。
たとえば、その父の書斎を描写したこんな文章――

この部屋は広く、温度もなく、壁には鹿の首の剥製が飾られていた。鹿の角は左右に大きく伸び、それが既に物であるのを示すように、毛並みの表面に薄く埃が溜まっている。

セリフが多い展開になると、こういう緊張感のある文章が薄まる気がして、
ちょっと残念なような気がするんですが。

連続通り魔を「つまらない犯罪」と言い、
「お前はこの国の中枢か、この国に対峙する何かの中枢に入り、悪をなす」ように
育てようとする父、そのために
「お前に地獄を見せる」なんておどろおどろしいセリフを吐く父。

きゃ~、もしかしてバイオレンス小説のような展開になる?
なーんて思ったんですが、もちろんそんなことはなくて、

屋敷にひきとられた養女・香織のためにも父を殺害しなくてはと決意する
十四歳の主人公を前にして、父はあっさりと死んで(殺されて?)しまう。
なんか拍子抜けしてしまうようなカンジ。

父は主人公のたくらみに気付いて、
「‥‥お前に地獄を見せることはできなくなったが、同じことだ。お前は私を殺すのだから。お前は人間を殺すのだから」
と、長々と、なぜ人を殺すと人間が歪むのかと演説し、自ら閉じ込められる。
毒薬も持っていたわけで、父の最期は餓死なのか、服毒なのかはわからない。

でも、主人公は父が目指した(?)ような『邪』にはならずに、
ずっと父を殺したことを悩んで、大したことはできていない存在となるわけで、

思うに、この主人公、すごく根が善良で誠実なんだと思うんですよね。
父は、そんな主人公の性格、わかってなかったのかなぁ?
この主人公では、たとえ地獄を見せて教育(?)したとしても、
そんな大それた『邪』にはならないように思えるのだけど。

父が目指す『邪』に近いのは、次男、つまり主人公の兄じゃないかと思うけど、
(父に言わせると「勝手に生まれ、勝手にそうしたに過ぎない」そうだが)
「戦争はビッグビジネスだ」という次男。
「金を稼ぐには、主に二種類がある」
「‥‥一つは、魅力的な商品やサービスをつくり、人々のサイフの金と交換すること。二つ目は、強制的に集められた金、つまり国が集めた人々の税金を国からもぎ取ることだ。‥‥儲かるのは主に後者。今から簡単に戦争の構図を教えてやる」

と、彼は、アフリカやイラクの戦争の裏にある
利権の話などを滔滔と述べるのだけど、なんか、とってつけたようで、
あー、そうですか、よく調べましたねーってカンジ。まぁ、
「我々は北を刺激し、日本の9.11を計画している」
「日本に一発でもミサイルが激突してみろ。一瞬でこの国の世論は変わる。平和憲法など吹っ飛ぶ。」
というセリフには、この間の韓国・延坪島への砲撃を思い出して、ちょっとゾッとしましたが。

そんな次男も、
主人公が殺したというよりは、父と同じように自分で死んでいったように思えて、
ふーーん、これだけの悪を為す人が、いやにあっさりと死ぬんだ。
まるで、自殺の機会を待っていたようなタイミングじゃない?

で、そんな『邪』の家系に生まれた主人公、
いじらしいほどの女性(香織)に対する純愛ぶりなんですよね。
探偵を使って、彼女のことを調べ、隠し撮りした映像を繰り返し見る。
彼女を振った男に復讐する。邪な思いで近づいてくる男を殺す‥‥

でも、私、この小説のハッピーエンドとも思えるような、救いのあるラスト、
嫌いじゃないです。最初の場面につながるような終わり方もちょっと洒落てます。
探偵も刑事も、この小説に出てくる人間、結構イイ人じゃないですか。


自分と最愛の女性を守るためにと思って、計画した殺人だけど、
いざやってみると、いつまでもその人を殺した感覚に苦しめられる主人公は、
『罪と罰』のラスコーリニコフ?
(すみません、私、『罪と罰』は途中で挫折したので、よくわからないんですが、
 著者もとても尊敬しているこの古典、読んでみなくちゃという気になってきました)

そして、ちょっと考えたのは、裁判員裁判で死刑の判決をさせるってのは、
今までフツーに生活していた人には、ものすごく酷なことではないのかってこと。
「‥‥人間を殺した衝撃を、無意識に精神のどこかに封じ込めずに、ちゃんと受け止めた時、人間は確かに誤作動を起こすよ」
たまたまクジで当たって、裁判員になり、死刑しかない被告だと判決をしたとしても、
その後、フツーの生活に戻れるのだろうか? 死刑になる被告の姿が
ずっと頭のどこかにつきまとうのではないか?と。
‥‥別に私は死刑反対というほどの明確な意見は持っていないんだけど。

ハハ、こんなふうに、読後 暗~く、ぐちゃぐちゃと考えてしまうのが、
中村文則の本なのかな?

今までの感想はこちら
中村文則「土の中の子供」 http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2008-01-14
中村文則「銃」「悪意の手記」 http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2008-01-27
中村文則「最後の命」 http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2008-02-05
中村文則『世界の果て』http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2009-09-23
中村文則『何もかも憂鬱な夜に』http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2009-10-23

こうなったら、『掏摸[スリ]』もぜひ読んでみなくては。
(まだ図書館の棚にないんですよ。予約してまでは‥‥と思ってるので。
 大江健三郎賞を受賞した小説だそうですね。それだけ人気があるのかな?)
タグ:中村文則
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ヴィトン バッグ

こんにちは、またブログ覗かせていただきました。また、遊びに来ま~す。よろしくお願いします
by ヴィトン バッグ (2013-03-15 05:22) 

バーバリー バッグ

今日は~^^またブログ覗かせていただきました。よろしくお願いします。
by バーバリー バッグ (2013-03-16 05:22) 

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