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青池保子「アルカサル―王城―」 [マンガ]

パクロスオンラインでゲットした図書券で、久しぶりに本屋へ行き、
青池保子の「アルカサル―王城―13巻」を買った。

アルカサル 13―王城 (13) (プリンセスコミックス)

アルカサル 13―王城 (13) (プリンセスコミックス)

  • 作者: 青池 保子
  • 出版社/メーカー: 秋田書店
  • 発売日: 2007/09/14
  • メディア: コミック



圧倒された。しばらくハマってました。

「エロイカより愛をこめて」と並ぶ青池保子の代表作で、
1991年の日本漫画家協会賞を受賞した作品。
なんと13年の中断期間を経てついに完結!

連載の開始は1985年。なので、完結まで22年かかったわけですね。
「エロイカ――」ほどではないけど、当然、絵も変化しています。


アルカサル-王城- (1) (Princess comics)

アルカサル-王城- (1) (Princess comics)

  • 作者: 青池 保子
  • 出版社/メーカー: 秋田書店
  • 発売日: 1985/05
  • メディア: 新書



1985年に発行された第1巻
当時からキッチリとした美しい絵だったけど、
さらに緻密になって、中世スペインの城や街、馬や船が入り乱れる
戦争の場面など、素晴らしい!! すごい!!

13巻は、12巻までと比べて分厚い単行本で、価格も600円(税込み)
読み応えがあった。というか‥‥とにかく圧倒された。

ドン・ペドロ死す!!
なんと、34歳!!
その短い生涯で、これだけのことをやったの?!
‥‥すごい!! 波乱万丈の濃い人生だったというか、元気だったのねー。

スペイン14世紀という、日本ではほとんど知られていないだろうと思われる時代、
当然ながら私は、ドン・ペドロという王がいたことも、当時のスペインの状況も、
歴史がどうなっていったのかも、何も知らないで読んできたが、
しかし、なんとすさまじい時代であったことか――
裏切り、政略結婚、同盟、戦争、略奪、処刑、黒死病‥‥

そんな時代的にも地理的にも遠いスペイン中世の話を、
胸をときめかせて読むことができるのは幸せなことだ。

これもひとえに青池保子という巨匠の力量だろう。
世界史というのは、同じような名前が出てくるし、
国の盛衰もコロコロ変わるので、よくわからない。
まして中世ヨーロッパというと、キリスト教が支配する
重苦しい時代みたいな印象で、派手な出来事もなく、
授業でもササッとすませてしまったような気がするが‥‥
(昔々のことだし、私が覚えていないだけか?)

その時代をマンガで描くためには、服装にしても、城や街にしても、
ものすごい資料が必要なわけで(残っている資料も少ない時代、
まして絵に描くための資料となると、本当に大変だったろうと推察できる)
最後のページに参考文献と取材でお世話になった人々が記載されているが、
本当に、ご苦労様でしたと言いたい。

こうやって書くと、私がずっと昔からの「アルカサル」のファンだったように
思われるかも知れないが、実を言うと、この13巻を買った時に私が持っていた単行本は、
1,2,3,4,5,8,9,10,12巻。

13巻を買って、それまでの単行本を出してきて読み返し、
やはりこれは全巻揃えなくては‥‥と、アマゾンで、抜けていた
6,7,11巻を買ってしまったのでした。

この作品が連載されていた頃、私は少女漫画からは遠ざかっていて、
1991年の日本漫画家協会賞受賞を知って
「青池保子先生は相変わらず頑張っているんだ」くらいに思っていたのだった。
5~6年前になるのか、「エロイカ――」を読んでいた息子が
「アルカサル」の古本を買ってきたのが、読み始めるきっかけで、
それからは、古本・新本を問わず、本屋にあれば買ってきて読んだのだが、
今回買った13巻を読むまで、私は既刊の単行本が12巻までということも知らなかった。

13巻には連載中断前の13年前の話と、2007年に描いた完結編が収録されているのだが、
しかし、12巻ではホントに途中じゃない! これで13年ほうっておいたの?
せめて連載中断の、ドン・ペドロ絶頂期まで(ここまでなら、一応完結という雰囲気)
ページが足りなかったら、何か別の作品を収録して発行するとか考えなかったの?

この、連載中断前のラスト
「日はまさに中天にあり、
 最高輝を放っていた――」
が好きだ。

というのは、今回描かれた完結編は、
歴史の冷酷さを感じるシリアスなものなので、
ドン・ペドロのファンとしては、この絶頂期で終わってくれたら‥‥とも思えるのだが、
やはりこれは「めでたしめでたし」で終わる物語ではない。
そんな歴史の冷酷さを知って、この連載中断前のラストを読むと、
また別の感慨がある。

全200ページの前後編として描かれた完結編は、
時系列に沿って物語を展開させてきたそれまでと違って、
全体の歴史の流れを凝縮して見渡せる構成となっている。

なので、1回読んだくらいでは、誰が誰とどうなって‥‥ということが
よくわからない程複雑なのである。


以下、ネタバレを含みますので、続きを読む方はクリックしてください。



しかし、これは史実だから、しょうがないのだが、
エンリケが王になるの?! 「アルカサル」では、
エンリケは狡猾で嫉妬深くて利己的な人物として描かれていて、
妹のカタリナに「もし王冠を手にしたら」
「絶望と共に死ぬだろう――」と言わせているが、
読者としても、なんかやりきれないというか、歴史の冷酷さを感じてしまう。

そして、そして‥‥マルティン・ロペスの最後!!
うっうっ‥‥歴史の冷酷さよ!! 涙ーー。
せめてもの慰めは、彼がコルドバのサン・パブロ教会に、
カラトラバ騎士団長にふさわしい名誉をもって埋葬されているということ。

そして、これも、歴史の冷酷さの前で、どうしようもないのだが、
ロドリゲス・デ・カストロの最後が海難事故?!
フィクションなら、作者に抗議するところだ。
「スペインのすべての忠誠心」と称えられたガリシアの騎士に、
なんという死に方をさせるのだと。
まぁ、一番そう思っているのは作者かもしれない。見せ所を失って‥‥

アラベラが、最後までドン・ペドロの孫であり、カスティリア王妃となった
カタリナに付き添っていたことが、せめても‥‥と思える。

私は12巻のアラベラが出てくる場面が好きだ。
彼女が出てくると、暗い(と言うと彼のファンから怒られるか?)ロペスさえ、
なんかボケが入るというか。

時系列に沿って物語が展開してきた中断以前には、そんな登場人物たちが
生き生きと動いていて、魅力的だ。
やはり、一番好きなのは、
ドン・ペドロが、愛妾マリアに正式に結婚を申し込むところ。

マリア・デ・パデリアは、女性の登場人物が少なく、出てくる女性も
こわいおばさん的なキャラクターが多い「エロイカ――」以降の
青池保子ワールドの中では珍しい、愛に生きる美しく優しいヒロイン。
だが、運命に耐えるだけの女性ではなく、賢く、時にはしたたかな性格が
非常に魅力的だ。ドン・ペドロが彼女に夢中なのもうなずける。

彼女と子供たちが出てくると、遠い中世スペインの宮廷の話が、
ほほえましいファミリードラマになってしまうのもいい。

でも、そんなほほえましいファミリードラマも短い間だったんだなぁと、
ドン・ペドロとほぼ同時に死んだ長女ベアトリスは16歳。
彼女が生まれたのは、まだドン・ペドロが傀儡の王にすぎなかった18歳の時。
人生が今よりずっと短かったこの時代、
それぞれの登場人物が、ドラマチックに生きていたんだなぁと。
完結編で描かれる次女コンスタンシアと三女イザベルのその後の人生も、
なかなかしたたかでいい。こうやって歴史は作られてきたのだなぁと。

――なんか、ものすごく長い、とりとめのない感想になってしまった。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。お疲れ様でした。

タグ:青池保子
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コメント 4

神奈川のしーちゃん

なんか、ドラマチックな作品のようですね。
読んでみたくなりました。
コミック版でも1巻から本屋にあるのでしょうか?
文庫になってるともっと嬉しい・・・
今、娘が少年漫画のちょっとおどろおどろしいものにはまっていて、私も一緒にたのしんでいます。
「アルフヘイムの騎士」も終わっちゃって、なんかないかなぁ・・・と思っていたところなので探してみましょう!
by 神奈川のしーちゃん (2008-05-07 00:43) 

しーちゃん

神奈川のしーちゃんさん、nice! & コメントありがとうございます。
青池保子の公式ホームページに載っていた情報ですが、
文庫化が決まったそうです。(秋田文庫より7月10日発売)
青池保子先生がスペインの取材旅行や、膨大な資料をふまえて
描いた、とても気合のこもった作品です。
当時の国と国との関係など、複雑すぎて読むのがハードな部分も
ありますが、とにかくすごい作品です。お薦めです!
by しーちゃん (2008-05-13 00:55) 

まりあ

遅まきながら、アルカサル読破しました。
マルティンロペスに夢中で、今はマルティン主軸で読み返しとります。
最初は何気のエピソードぽかったマルティンと王の出会いの場面も後々の展開をふまえて読み返すと、意味深な場面になりますね。
(どこまでも・・・王のお供をいたします)の独白がその後の運命を予感させてくれます。
ブランシュ姫の場面は本当にマルティンファンを泣かせるし、アラベラが出てくる所の何気にぼけてるマルティンも大好きです。
死の場面は壮絶でしたけれど、騎士らしく死ねて本望かなとも思います。ああ・・


by まりあ (2008-08-17 03:08) 

しーちゃん

まりあさん、コメントありがとうございます。
マルティン・ロペスへの熱い想い、わかります! とても魅力的なキャラクターですものね。
ドン・ペドロの激しい性格と好対照で、利害によってコロコロと敵味方が変わる時代にあって、ずっと王に忠実で、いい主従でしたね。
by しーちゃん (2008-08-18 03:34) 

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