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山岸凉子『アラベスク』 [マンガ]

読んでいるびっけさんのブログで山岸凉子の『アラベスク』を取り上げていました。
はい、私が一番マンガにハマっていた頃、夢中になった作品です。

『アラベスク』第一部は、
「りぼん」に昭和46年(1971年)10月号より昭和48年(1973年)4月号まで連載されました。

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「りぼん」昭和47年12月号ふろく
この号は、山岸凉子がヨーロッパへ取材旅行に行って休載したため、
それまでのストーリーのダイジェストやバレエの世界をまとめたふろくがつきました。

以下の画像は、私の「りぼん」からの切り抜きです。

りぼんマスコットコミックスの『アラベスク』1巻と2巻も持っています。
(連載の最初の頃、りぼんを買わなかった月があるので、後から買ってしまったのです。
 3巻以降は雑誌からの切り抜きが揃っているので、コミックスは買っていません)

連載第一回目のキャッチフレーズ(?)に、
「まったく新しい
 バレエまんが
 ここに登場!」とありましたが、

それまでのバレエまんがが、日本のお稽古事としてのバレエ団を舞台として、
(バレエはお嬢様のお稽古事といった華やかなイメージがありました)
貧しいけど才能のある主人公が、お金持ちのライバルにイジメられても、
耐えて頑張るような、そんなお涙頂戴ストーリーがパターンでしたね。

『アラベスク』は、当時バレエの世界トップレベルにあったソ連の
レニングラードバレエ学校を舞台にして、
舞台芸術としてのバレエを極めていく、主人公ノンナ・ペトロワと、
彼女の才能を見出し、指導していくユーリ・ミロノフの真摯な姿が素敵でした。

そして、バレエのポーズや動きが美しくリアルに描かれているところも素敵でした。

まぁ、シンデレラストーリーではあります。
いなかのバレエ学校(キエフは田舎ではない?)で、基礎ができてないとか、
踊りが荒いとか言われていたノンナが、たまたま視察に来た一流ダンサーの
ミロノフ先生に見出され、伝統あるバレエ団の数あるソリストを押しのけて、
主役に大抜擢されるわけですから。

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連載第7回 「アラベスク」初演の場面

‥‥もしかしたら、私の中にもすごい才能が眠っていて、ミロノフ先生のような
素敵な男性が見出してくれないかしら‥‥なんてのは、少女の夢でありました。

でも、主人公ノンナの汗と涙と血のにじむ努力が、シンデレラストーリーの
ご都合的なところを忘れさせて、バレエの道探求ドラマにしていました。

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連載第10回 映画「アラベスク」のモルジアナ役をかけて「瀕死の白鳥」を踊るノンナ

で、こういうストーリーで大事なのがライバルです。
努力型の主人公には天才型のライバルというのが王道。

ラーラ(ライサ・ソフィア)の存在は大きかったですね。

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左下のコマがラーラ
追い上げてきたノンナに、心を乱す言葉をかけて動揺させた結果を見て笑っています

「天才なんて9分の汗と1分の才能」と自分に言い聞かせるノンナにラーラは言い放ちます。
「9分の汗だけじゃ 天才の10分には足りないのよ」
「のこり1分があなたにある?」
「あたしには‥‥あるわ!」と。

ミロノフ先生は、ラーラとノンナの違いをこう言います。
「ラーラが゜踊りの解釈をまちがっていたとする」
「その時は一言いえばいい 彼女は一度でこっちが要求していた踊りをおどることができるんだ」
ノンナは?
「だめだ なかなか踊れん」
では、やっぱりラーラが上か?
「一度で完璧に踊れるということは おそろしいことだ」
「なぜなら‥‥そこまで だからだ」
「一度で完璧には踊れないものは 10回踊るとすれば10回努力する」
「20回なら20回努力する 全力でね」
「そしていつか 要求したもの以上を踊ることになるんだ」

そして、自分以外が全てライバルというバレエ――だけでなく、同じ道を志す者の
厳しさもしっかり描いていました。
ノンナが主役に大抜擢された時、だれよりも喜んでくれると思ったアーシャが
かなしそうな目をしていたこと。

実は、この連載が始まるまで、私は山岸凉子をあまり評価していなかったのです。
ストーリーは面白いところもありましたが、わりとそれまでの少女漫画のパターンでしたし、
なにより絵がどうも‥‥描きなぐったような荒さが気になっていましたので、
『アラベスク』で絵がものすごく変わって、上手くなっていてビックリしました。
そして、カラーページがすごく美しくて、またビックリでした。

私は、山岸凉子は絵を努力して描く人ではないかと思うのですが‥‥
こういう絵を描きたいと考えて、自分の理想のイメージに出来る限り近づけたいと、
資料を調べたりして、結構苦しんで描くタイプではないかと。
いわば、努力のノンナタイプではないかと思うのですが。
萩尾望都は絵が上手いです(山岸凉子が下手というわけではないのですが)し、
大島弓子は、感覚的に絵を描くというか、わりと楽しんで絵を描いていたのではないかと。

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連載第15回 1ヵ月休載して、ヨーロッパ旅行のあと、パリを舞台に展開

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連載第17回 新しいライバル マチュー だが彼女は病に倒れる

モダンバレエを踊るマチューの格好よさに、ノンナの新しいバレエの戦いと成長を
期待していたのですが、マチューは「エトワールになって『ジゼル』を踊る」夢を
果たせずに、白血病でなくなってしまいます。
「ジゼル」の死の衣装を着て埋葬されるマチューが哀しく美しかったです。

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そして最終回(18回)「りぼん」昭和48年(1973年)4月号
レニングラードに帰ったノンナたちに賞が贈られて、おめでとう‥‥と、ハッピーエンド。

山岸凉子『ゆうれい談』でも書いたけど、なんか急いで終わらせてしまったような印象を持った。

『アラベスク』第二部は、「花とゆめ」で昭和49年(1974年)6月号より連載開始
ですが、ちょっと漫画から遠ざかりつつあった頃であり、雑誌が違うのであまり買えなくて、
実は第二部を全て読んだのはわりと最近になってからでした。

最近またバレエ漫画『舞姫 テレプシコーラ』を描かれていて、評判もいいようですね。
‥‥読んでみようかしら。
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マアカ

バレエといえば「・・・の星」とか「白鳥の・・・」とかの時代でしたね。
あれはあれでおもしろくて懐かしかったりするのですが。
「テレプレコーラ」面白いです。
読んでいてかなりきついところもあるのですが、毎号楽しみに立ち読みしてます。
「昴」もおすすめですよ。
by マアカ (2008-09-10 12:38) 

びっけ

こんにちは。
わぉっ!! 『アラベスク』の世界が!!!
だいぶ前にコミックは手放してしまったので、何十年ぶりにこの絵を見ました。
もう感涙です。(;_;) ありがとうございます!

そうそう、最後の画像のノンナのヘッド・ドレス(かぶりもの?)は二匹のヘビが絡み合っているようなデザインでした!
マシューのヘア・スタイルもボブカットだと思っていたけれど、階段状にカットがついていたんですね。
あぁ、当時の記憶が蘇ります。

ミロノフ先生のノンナ評のくだりは、なかなか深いなぁと今読んでも感動しました。
いつも貴重な画像をありがとうございます。
トラックバックも ありがとうございました。私もトラバさせてくださいませ。
by びっけ (2008-09-10 22:52) 

しーちゃん

マアカさん、nice! & コメントありがとうございます。そうそう「白鳥の・・・」 私のお宝の中に、西谷祥子の「白鳥の歌」という古典的、典型的なそれまでのバレエ漫画があります。次の記事にしてみました。でも、この作品、なかなかよく出来ていて、面白いですよ。
by しーちゃん (2008-09-11 02:29) 

しーちゃん

びっけさん、nice! & コメント & トラックバックありがとうございます。『アラベスク』ハマりました。山岸凉子の作品は特にカラーページが美しいんですよね。舞台衣装のデザインも素敵です。本当にこんなバレエがあればいいのにと思ってしまいます。
by しーちゃん (2008-09-11 02:40) 

びおれって

はじめまして!
私はだいぶ前にアラベスクの愛蔵版を買ったんですが、また最近になって読み返しております。
ノンナはいつ見ても健気でかわいいな…と思うんですが、やっぱりミロノフ先生です!昔はちょっと恐いし冷たいな…なんて思ったんですが、しかしカッコいい!改めて惚れなおしてしまいます。やっぱり行方不明のノンナを迎えに行くところと、シルフィードを踊る前に取り乱したノンナにキスするところが好きかな…ほかにもミロノフ先生の優しさを感じるシーンはたくさんあります。これからもたまには読み返して、ミロノフ先生の新たな優しさを発見したいです。
by びおれって (2011-07-15 07:10) 

シミルボン

初めまして、書評サイトのシミルボン(https://shimirubon.jp/)と申します。
ブログの書評を拝見し、ぜひシミルボンでもお書きいただけないかと思い、ご連絡致しました。ご興味おありでしたら、こちらのメールアドレス(offer★shimirubon.jp ←★を@に変えてご送信ください)までご連絡いただけませんでしょうか。あらためて詳細を送らせていただきたいと思います。ご検討くださいませ。
by シミルボン (2017-09-07 15:47) 

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