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中村文則『惑いの森~50ストーリーズ~』 [本]

暮に、図書館の中村文則のコーナーに新しい本があるのを発見して借りてきました。
副題に「50ストーリーズ」とあるように、50の短編が収められています。

惑いの森 ~50ストーリーズ~

惑いの森 ~50ストーリーズ~

  • 作者: 中村文則
  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2012/09/21
  • メディア: 単行本


あとがきすらも、「Nのあとがき」という50番目の話なんです。
その「Nのあとがき」によれば、
「この本は、アマゾン上にあるWEB文芸誌『MATOGROSSO』でのショートストーリー連載(全28話)に、新たに書き下ろした22話を加えて、『50ストーリーズ』としたものです。
 2話をボーナストラックみたいに書き下ろして、『30ストーリーズ』にすることも考えたのだけど、元々WEBで無料で読めたものを手に取ってくれた人に対して、もっと何かがしたいと思った。なので思い切って22話書き下ろすことにしたのだけど、随分時間がかかってしまった」
とのこと。いかにもこの著者らしい真面目なところだなって。

この人の本、いつも装丁がとても素敵なんですが、今回もとても素敵。
松倉香子のイラストが表紙だけでなく、本文中にも使われていて、
中村文則の詩的に研ぎ澄まされた緊張感がある文章と合わさって、すごくいい!
私、中村文則は文章が好きなので、短編がいいんじゃないかって思ってたんです。
特に私がいつも感心するのは出だしの文の上手さ!
今まで私が読んだこの人の本の中で一番面白いのは『掏摸[スリ]』だけど、
短編集の『世界の果て』のシュールでちょっと諧謔味のある話
(「不条理」なんて懐かしい言葉を思い出してしまう)好きでした。

で、この50の話、『掏摸[スリ]』や『王国』など、この人の長編作品の世界を思わせる
裏社会を生きる人々の暗い話(それぞれつながっているような、いないような‥‥)や、
シュールな話、切ない話、ちょっとメルヘンっぽい話‥‥
そして、著者自身を自嘲気味にブラックに登場させる「Nの‥‥」シリーズ(?)
‥‥ふふふ、中村文則さん、ちょっと行き詰まったりしてますか?でも私、
結構このシリーズ好きです。夜中に自販機で缶コーヒー買って、
パトカーにドキドキするなんてくだり、状況が思い浮かぶようで。
でも、缶コーヒーあまり飲むのは健康に良くないですよー。

そんな話が50話も収められている本なので、なんかとてもおトクな気分になれます。

あとがきで「祈り」と「鐘」が、東日本大震災が起きたときに書かれた作品って
知って読むと、あぁ、再生への祈りのようなものが込められているなとか、

マトグロッソに掲載されたものと書き下ろし作品が混在して載せられているんだけど、
目次で印がついて、わかるようになっているので、書き下ろしかどうかって当てる
つもりで読んでいくのも面白い。

黒いページに白い文字で印刷された「通夜」現実の猥雑さみたいなものが
ちょっとブラックに表現されていていいなって。
ネコ好きとしては、「老人とネコ」なんかも味があって好きです。

今まで中村文則の本を読んだことがない人にも、気軽に読めるのでオススメです。
「出口なし」がマトグロッソ上で読めるようですが、この話もシュールで好きな話です。

「マトグロッソ」の最新情報と入口へのバナーがあるページはこちら
http://www.eastpress.co.jp/matogrosso/
「MATOGROSSO(マトグロッソ)」とは、ポルトガル語で「深い森」を意味する言葉だそう。
(現在、マトグロッソ上で読める『惑いの森』作品は「出口なし」の一篇のみのようですが、
『惑いの森~50ストーリーズ~』刊行記念の中村文則×松倉香子の対談が読めます。)

今までの感想はこちら
中村文則「土の中の子供」 http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2008-01-14
中村文則「銃」「悪意の手記」 http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2008-01-27
中村文則「最後の命」 http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2008-02-05
中村文則『世界の果て』 http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2009-09-23
中村文則『何もかも憂鬱な夜に』 http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2009-10-23
中村文則『悪と仮面のルール』 http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2010-12-10
中村文則『掏摸[スリ]』 http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2011-01-20

この後、『王国』も読んだんですが‥‥うーん、ちょっとこの作品‥‥私には
合わなかったというか『掏摸[スリ]』の兄妹編として、ある特殊な仕事をしている
女性の目を通して描かれていて、『掏摸[スリ]』に出てくる登場人物が
こちらにも出てきたりしているところはなかなか面白く読んだんだけど‥‥やっぱり
「悪」がちょっと観念すぎっていうか‥‥

あっ、そうだ『遮光』も読んでますが感想書いてないですね。

中村文則の公式サイトはこちら:http://www.nakamurafuminori.jp/
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