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宮部みゆき『模倣犯』 [本]

ずいぶん前に話題になったこの作品、
分厚い本が上下巻揃って図書館の棚にあったので、
お正月休みに読むのにいいかなって借りてきたんです。

模倣犯〈上〉

模倣犯〈上〉

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2001/03
  • メディア: 単行本



模倣犯〈下〉

模倣犯〈下〉

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2001/03
  • メディア: 単行本



1月2日から読み始めて、7日に読み終わりました。
確かに面白かった。だけど、とにかく長い!

分厚い上下巻に、二段組の本文。結構夢中で長い時間読んでいるのに、
残りのページ数がちっとも減らないように感じました。

最初のうちは、いろんな登場人物が出てきて、それまでの話とは全く違うように
感じて‥‥それぞれ細かな描写があるし‥‥今までの話の続きはどうなったのかって、
そんなイライラ感。

わりと早いところで犯人が明かされるので、それからは、
「なんでこんな簡単なコトに気付かないんだ」って、
まるで見当違いの登場人物たちにイラっとしながら読んでいきました。

だって、ねぇ‥‥(以下、ネタバレ含みます)

高井由美子が警察が兄が無実だという話を聞いてくれないって、
わざわさルポライターに連絡する?
テレビのワイドショーあたりをもっとうまく利用できなかったものかなぁ?
それまで家のまわりにマスコミが詰め掛けていたんでしょ?
高井由美子の主張が視聴者の反感を買うかもしれないけど、
全く見当違いなケチな容疑者を「真犯人」とかって
出したりするほどの業界だし、もっとセンセーショナルに取り上げられても
いいような気がするなぁ。まぁ、どっちにしても由美子には辛いことだけど、
なんか由美子がかわいそうで仕方ないんだけど。
こっちは真犯人がわかっているから、周囲の反応に、なんでもっときちんと
話を聞かないんだって、ルポライターの滋子がバカっぽく思えるし、
由美子の見合い相手の刑事も、ちゃんと言い分を聞いてやればいいのにってイライラする。
‥‥それがこの作品の「味」なのかもしれないけど。謎解きのミステリーではないのだから。

それに、いくら盲点かもしれないけど、「ピース」がやったことは危険すぎる。
ボイスチェンジャーを通してテレビ局にかけてきた電話が先と後とで違うって
気がつく視聴者がいるくらいだし、ネット上では由美子が共犯者だみたいな
無責任な書き込みだってあるくらいなんだから、「コイツが犯人じゃね?」って
半分は冗談みたいな、やっかみ‥‥「ピース」はネクラ人間からはやっかまれるような
爽やかな印象なんだし‥‥みたいな声があがってもいいような気がする。
そしたら、声紋鑑定をすればスグ犯人がわかってしまうわけだし。
まぁ、警察とか、いわゆる良識ある人ほど犯人がこんなことをするとは思わないんだろうけど。

あれだけ人気者になれば、過去のことも詮索されるよね。
お母様はお元気ですか?って、犯罪とは全く関係なく聞かれることもあるだろうし。
彼が真犯人だって、滋子に挑発されなくても――あぁ「模倣犯」ってタイトルは
ここからつけてるのね――そのうちシッポを出してしまうだろう。
こんなことを始めなければ、うまく隠れていることができたかもしれないのに。

この本は『週刊ポスト』1995年11月10日号~1999年10月15日号に連載したものに
加筆改編して2001年4月20日に初版第一刷が小学館から発行されたもの。

2002年にはSMAPの中居クン主演で映画化もされたそうですね。
これだけの長篇作品を映画化するのはちょっと無理があるのではって気もしますが。
テレビドラマならもっと長くできるだろうけど、登場人物が複雑に入り組んでいるし、
やっぱり難しいかなぁ。

そして、時代だなぁって感じる箇所もそこここに。
まだ携帯電話はそんなに普及しておらず、
インターネットも出てきてはいるけど、かなり若者限定みたいな状態。
現在みたいに、多くの人がブログやSNSで自分の意見や日常生活を公開しているのとは違い、
ホームページの掲示板などに書き込むのは、かなりオタクみたいな人ってカンジ。

なので刑事も自分の娘にお小遣いやって情報を探させたりしていたり。

現在のようにほとんどの人が携帯電話を持っている状況では、
犯罪も捜査も変わってくるだろうか?
少なくともすれ違いドラマみたいなのはできなくなったよね。

伏線にする予定(?)の話が、そのまま宙ぶらりん状態になってるのも気になるなぁ。
なのでこの作品、やたらに長くなっちゃってるんですよね。

小樽で「ピース」とヒロミが女性拉致の未遂をやってたってのは、どうなのかなぁ?
なんでわざわざそんな遠くでやらなきゃならないの?
あの女性拉致は、別荘というアジトがあったからこそ、
死体の隠し場所に困らなかったわけだし。
それに、飛行機で被害者が「ピース」と乗り合わせて、
その時の相手だって気がつくって話、そのままになっちゃったよね。

ヒロミの見つからない携帯電話を子供が拾ったって話もそのまま。

「建築家」のエピソードは興味深いけど、あまりこのストーリーとは関係なかったし

そんな中途半端なエピソードはいっぱいあるのに、
「ピース」の少年時代の話とか、母親を殺した時の話は全く出てこない。
なんか「ピース」の印象が薄っぺらなのは、そんな内面の描写が少ないせいじゃないだろうか。

こういう話だから、もちろん筆者は犯罪のトリックとか、大まかな筋は決めてたんだろうけど、
なんか話があっちこっち飛んじゃってて、かなり気分的に書いているような気もする。
連載途中で細かいトコなんか変わってきちゃってるんじゃない?

犯罪者たちの、精神的に幼いフワフワした生活と対比させる意図だろうけど、
豆腐屋を営む有馬や蕎麦屋のカズが「地に足をつけた」生活って、
それぞれかなり筆者に「ヒイキ」されて描かれているように感じた。

市井にこういう気骨があって、学校の成績ではなく「頭がいい」人は多いんだろうけど、
それにしても‥‥ちょっとカッコ良く喋りすぎているような気も。

カズはいわゆる識字障害だったのかな。人と見え方が違って、真面目に勉強しているのに
文字が覚えられなくて、「バカ、グズ」って思われて少年時代を送ったわけだけど、
「ピース」やヒロミと最後に話をするところは、ちょっとリアリティーがないほど
熱弁でカッコいい。でもその後の展開は、結局は家族まで犯罪の被害者にしてしまったわけで。
もうちょっと事前になんとかできると――妹だけにでもうちあけておくとかね――
まだ救いようもあったのに。

でも、こういう町の豆腐屋とか親子で営む蕎麦屋って、今の日本じゃ絶滅寸前だよね。

この話とは関係ないけど、カズが人と見え方が違うってとこを読んでいて、
私は今頃になって気がついたんだけど、人の顔の見分けが困難っていうかすごく苦手。
ドラマなどで刑事が容疑者の写真を持って「この人を見ませんでしたか?」って
尋ねて回るのがすごく不思議でしょうがなかった。
写真見たって、その人かどうかわからないでしょ?って。
人が「どこかで会いましたよね」って言うのも不思議だった。
一度や二度会ったくらいでわからないでしょ?って思ってたんだけど、
どうやらそういうことができる人はたくさんいるらしい。
私はダメ‥‥どのくらいダメかっていうと、
SMAPのメンバーの見分けはつくようになったけど、
嵐のメンバーの見分けはつかないってレベル。
もちろん、芸能界のこと詳しくないってこともあるだろうけど、
テレビに出てる人の顔がちっとも覚えられないから、芸能界に興味もないし、
ドラマや映画にそんなに夢中になれないんだって、ホントに最近気がついた。
人は誰でも自分と同じように見たり感じたりしているだろうって思ってるけど、
実は全く違うように感じているかもしれないってのは、考えてみたらコワイことだなぁ。

『模倣犯』は新潮文庫にもなっています。全5巻。
通勤途中などで読むには文庫の方がいいでしょうね。
色々突っ込み入れつつも、これだけの長い作品を夢中になって読み通してしまったってのは、
やっぱり面白かったんでしょうね。

模倣犯1 (新潮文庫)

模倣犯1 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/11/26
  • メディア: 文庫



模倣犯2 (新潮文庫)

模倣犯2 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/11/26
  • メディア: 文庫



模倣犯3 (新潮文庫)

模倣犯3 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/11/26
  • メディア: 文庫



模倣犯〈4〉 (新潮文庫)

模倣犯〈4〉 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 文庫



模倣犯〈5〉 (新潮文庫)

模倣犯〈5〉 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 文庫



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tenchan

模倣犯、私も2年ぐらい前に読みました。

面白いけど長かった~。
しーちゃんさんと同じような感想です。(笑)
前半から「ピースって誰よ?早くピースの描写を!」
と、ずっと思ってました。(爆)

時代を感じるといえば、歌の世界もそうですよね。
「ダイヤル回す」とか「ポケベルが鳴った」とか
今の子には分からないような歌詞が出てきますから~。
by tenchan (2013-01-09 13:35) 

しーちゃん

tenchan さん、コメントありがとうございます。やっぱりこの本の第一印象は「長い」ですよね。私も、もっとピースの心情とかそんな描写が出てくるのを期待して読んでいったんですが、最後まで肩透かし‥‥
クリスマスに「♪きっと君は来ない」って歌詞を聞いて、今のコなら「携帯にかけてみればいいじゃん」って思うかもねってツッコミ入れておりました。
by しーちゃん (2013-01-10 12:55) 

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