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村上春樹『1Q84』 [本]

村上春樹の『1Q84』を読み終えた。村上春樹の本は出る前からベストセラーが決まっているようだが、この長い小説も発表当時(1、2巻が書下ろしで2009年5月に、3巻もやはり書下ろしで2010年4月に発売された)かなり話題になったと覚えている。それらの本が図書館の棚に三冊並んでいるのを見て、ちょっと感慨にふけってしまった。

1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 1

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/05/29
  • メディア: 単行本



1Q84 BOOK 2

1Q84 BOOK 2

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/05/29
  • メディア: 単行本



1Q84 BOOK 3

1Q84 BOOK 3

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/04/16
  • メディア: ハードカバー


世間には村上春樹が大好きという人は多いらしいが、私は『1Q84』についてこれまで全く知識を入れずに来た。三冊の分厚い本はとてもシンプルな装丁の本で、タイトルから、これが多分1984年を舞台にした小説だろうということくらいはわかったが、それ以上の情報(写真とかイラストとか)はない。

私にはそんな、何も知識のないという状態で読んで、最後はどうなるのか、
チェーホフの小説作法は踏襲されるのか?
というミステリー小説のようなワクワク感も味わうことができたのは良かったと思う。

以下、ネタバレも含むので、未読の方はご用心ください。


1巻の扉に、ペーパー・ムーンの一節が提示されています。
この言葉は小説を読み進むほど暗示的に思えてきます。

ここは見世物の世界
何から何までつくりもの
でも私を信じてくれたなら
すべてが本物になる

"It's Only a Paper Moon"
(E.Y. Harburg & Haold Arlen)


この長編小説をどのように読んだらいいのだろうと私は思った。単なるファンタジーなのか。あちこちに作者のメッセージが隠されているのだろうか。私は村上春樹が好きなのか嫌いなのかよくわからない。好きと言えば好きなのだろう。こんな長い小説を、私はそんなに忙しい人間ではないが、それでも日常のやらねばならないことは多々ある中で、かなりの時間を割いて読んでしまうのだから。村上春樹の小説はミステリーとは違う。読み終わっても謎は謎のまま残る。重要人物でさえ最後どこかへ行ってそのままというラストもあった。それに比べれば『1Q84』はラストが恋愛小説のようなハッピーエンド風になっていて、この終わり方は「とてもロマンチックだ」(←「とても」とまではいかないが)で私は嫌いではない。ま、2巻で終わっても、これはこれで村上春樹らしいラストで、3巻は蛇足だと思わないでもない。だいたいこの物語は長すぎるし。私はてっきり青豆は1Q84の世界から消えたと思ったのに。

村上春樹の本はいつもその文章に感心させられる。本を読んでいる間、自分の何気ない日常が村上春樹の小説になったように感じられる。

しーちゃんは朝起きて台所に行き、やかんに湯を沸かしコーヒーを作った。ウインナーともやしを炒め、昨夜の残りの冷えたごはんを電子レンジで温めて食べた。‥‥とかって。

パスタとかチーズとか、白ワインがある食卓だと、もっといいんだけど(笑)

そして比喩が素晴らしい。
中年の運転手は、まるて舳先に立って不吉な潮目を読む老練な漁師のように、前方に途切れなく並んだ車の列を、ただ口を閉ざして見つめていた。

しかし、この運転手は結局は何だったんだろう? 1Q84へ通じる道を知っていたのか?
物語の冒頭に出てきたきりだし。
そういうことをしますと、そのあとの日常がいつもとは少し違って見えてくるかもしれません。でも見かけにだまされないように。現実というのは常にひとつきりです。
この暗示的なセリフはどんな意味? 青豆は別の世界へ来てしまったのではないの?

1Q84というのはよくあるSFの設定のパラレル・ワールドとは全く違うようだ。
青豆がそちらの世界に行ったのは首都高からとしても、天吾は?
ふかえりの「空気さなぎ」の書き直しをしたから?
青豆に仕事を依頼した柳屋敷の老婦人やタマルは??

まぁ、この小説では謎は謎のまま、こういうものだと読み進んでいくしかないのかな。
説明しなくてはわからないということは説明してもわからないということだ

私はジョージ・オーウェルも『1984年』という作品も知らなかったが、
1949年に刊行されたジョージ・オーウェルの近未来小説だそうだ。
そこにはスターリンを寓意化した「ビッグ・ブラザー」という独裁者が登場する。
『1Q84』は現在から過去を描いた小説で、そこには「リトル・ピープル」なる不思議なものが登場する。

未来を舞台に設定した物語を作った場合、設定した未来の年はやがてやってくる。
『鉄腕アトム』はアトム誕生を2003年と設定した。幼い私たちは21世紀になったら、どんな素晴らしい科学の世界が待っているだろうかとワクワクしたものだ。
現在から過去を描く場合は、過去は1つしかない。もちろん立場が違えば違って見えるのだが、事実は一つだ。しかし『1Q84』ではそうではない。

「こうであったかもしれない」過去が、その暗い鏡に浮かび上がらせるのは、「そうではなかったかもしれない」現在の姿だ。(1巻の帯のコピー)
‥‥うーん??

1984年というのは、もしかしたら日本が一番幸福だった時代ではないだろうかと思う。
これは私が天吾や青豆の年齢設定より3つ若い、1984年に27歳であったということからよけい感じるのかもしれないが、高度成長時代が終わり、十分に生活が豊かになった日本で、まだ阪神大震災も地下鉄サリン事件も、バブル崩壊も知らなかった時代。

歴史が人に示してくれる最も重要な命題は「当時、先のことは誰にもわかりせんでした」ということかもしれない。

そして何より現在と違うのは、インターネットの普及だろう。
1984年にヤナーチェックの『シンフォニエッタ』を聴きたいと思ったら、かなり都会のレコード店まで行ってLPを探して買わねばならない。
あ、それと「エアチェック」って方法があった!
FMラジオで目当ての曲が流れるのを専門の雑誌でチェックして、カセットデッキでテープに録音したっけ。

国会図書館に通い、新聞の縮刷版やら年間やらを机に積み上げ、一日がかりで情報を探る時代」であったわけだ。

それが今では、YouTubeで簡単に聴くことができる。

もっと晴れやかなファンファーレをイメージしていたのに(『2001年宇宙の旅』の『ツァラトゥストラかく語りき』のような)なんか不協和音でざわざわするような感じが、まぁかえってこの作品には合っているのかな。

しかし、村上春樹のこの文体で、例えば青豆が巨大な宗教組織「さきがけ」と戦うみたいな、現実的で娯楽性の強いハードボイルド小説にしたら、大ヒットすると思うけどなー。
(もう大ヒットしているけど、さらに大、大ヒットってことね)
銃の描写など素晴らしい! セックス・シーンも多いしさー(^◇^)
まー、よくわからん(いろんな読み方ができる)ところが、毎年ノーベル文学賞候補に挙げられるほどの作家になった理由かも。ピカソがすごいデッサン力を持っていながら、よくわからん(と一般には思われる)絵を描くみたいな?


村上春樹『1Q84』 新潮社公式サイト: http://1q84.shinchosha.co.jp/

こちらにみんなが描いた というイラストコーナーがあり、なかなか面白かったので、私も描いてみました。
1Q84.gif
文庫だと6巻で完結のようです。
1Q84 BOOK1-3 文庫 全6巻 完結セット (新潮文庫)

1Q84 BOOK1-3 文庫 全6巻 完結セット (新潮文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/05/28
  • メディア: 文庫

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図書館に返却に行ったら、ガイド本を見つけました。 舞台となった首都高や街の写真などもあって面白い。 2巻までのところで解説してあるので、3巻を読むと違っているところもあるけど。
村上春樹「1Q84」の世界を深読みする本

村上春樹「1Q84」の世界を深読みする本

  • 作者: 空気さなぎ調査委員会
  • 出版社/メーカー: ぶんか社
  • 発売日: 2009/08
  • メディア: 単行本

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