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中村文則『世界の果て』 [本]

久しぶりに小説を読みました。中村文則『世界の果て』

世界の果て

世界の果て

  • 作者: 中村 文則
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/05
  • メディア: 単行本


なんか最近は小説を読む気がしないんです。特に、
読後感が「ああ面白かった」で終わるような小説はどうも読む気にならないんですよね。

中村文則の本は一時期、まとめて読んだんですよ。ブログにも感想を書いてます。
中村文則「土の中の子供」 http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2008-01-14
中村文則「銃」「悪意の手記」 http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2008-01-27
中村文則「最後の命」 http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2008-02-05
うーん、好きというのかなぁ? これらの、どーしようもなく暗い、
途中で読むのが嫌になるほど暗い、読後感もモヤモヤとした話。

この間、図書館で、中村文則の新しい本があるのを見つけて、手にとってみたんです。
(この本の前に『何もかも憂鬱な夜に』という本も出てたんですね)

とにかく装丁がとてもいい!
カルデラ湖なのか、荒涼とした山の中にほの白い湖面、
すべてが薄暮の中に沈んでいるようなモノクロームの暗い写真
そしてタイトルと著者名が白く細い明朝体でレイアウトされていて、
中村文則の小説世界をよくあらわしている。

そして、帯がまたすごくいい!!
(最近、市の図書館では、帯を見返しに貼り付けてくれている。
 映画本体より予告編の方が面白かったりするように、帯のコピーって、
 よく考えられていると思うので、この配慮はありがたい。)

黒に近いセピア色に、白に近いセピア色の文字で、
ほの暗さの快楽  若き「実存主義作家」の最新短編小説集
うんうん「ほの暗さの快楽」か! この人は実存主義作家なのかぁー、なんて。

そして、帯を作った人は、中村文則の一番の魅力をよく知っている!
この人の小説は、最初の一文がとてもいいことを。

――それぞれの物語はこのように始まる。――
僕は、これまでに幾度か、幽霊を見た。(「月の下の子供)
妻が死んでから、男は動かなくなった。(「ゴミ屋敷」)
「‥‥部屋を、探してるんですが」(「戦争日和」)
後ろをつけている人間がいる。(「夜のざわめき」)
部屋に戻ると、見知らぬ犬が死んでいた。(「世界の果て」)


このキビキビとした文章がとてもいい。そして、中村文則の小説、私は、
全体の構成とかより、ある一場面の描写が好きなので、短編というのは向いていると思う。

『月の下の子供』は、芥川賞受賞作の『土の中の子供』と、タイトルも似ているけど、
印象も同じようで、読後感は、暗さの中に落ち込んでいくような疲労感というか。
幽霊というのは結局なんだったのか、私にはよくわからないけど、イメージの美しさに魅かれた。
夜に輝く月の美しさ。地上の炎の美しさ。
炎って見つめているとその美しさに見ほれてしまうことがあるけど、
主人公は自分が火をつけられ、燃えて煙になることを空想する。幻影の子供に
「僕に火をつけろよ」と言うが、子供は拒絶する
――最も大切な人間に、火をつけるんだ。この世界で、最も大切だと思うものに。それを完全に燃やす火柱を、その美しい赤を、まだ見ていないから。
川に身を投げ、死ぬかと思ったが、助かり、憧れていた赤く美しい炎を見たと思ったが、
現実にはホームレスが焚く火にすぎなかったこと。
日常生活を描写するのに「つまらない」という形容詞を多様していたのも印象的だ。
「つまらない虫」「つまらない映画」「つまらない罵声」‥‥

『ゴミ屋敷』は、あとがきで著者が書いているが、「従来の僕の読者は驚かれたかもしれないけれど(中略)個人的に気に入っている
現実を離れ、シュールで諧謔味のある話になっている。
昔、学生時代、倉橋由美子が好きだった私としては、結構、こういう話、好きです。
「不条理」なんて懐かしい言葉も思い出してしまいました。
まぁちょっと荒いというか、この展開はどうかなと思うところもあったけど。

『戦争日和』もシュールで寓意にあふれた短編。
全く非現実の話なんだけど、明るく「戦争日和ですね。」という登場人物、実は
今の現実世界とそんなに離れていないのでは‥‥と考えさせられるような怖さがある。

『夜のざわめき』 小説家が主人公ということもあり、なんとなく作者の
夢――寝ている間に見るような、悪夢――と現実をごっちゃにして書いたのではないかと
思わせるような話。私も夜見る夢は、こんな、何かをしなければいけないのにできないとか、
どこかに行かなくてはいけないのに行けないなんて夢が多いです。

『世界の果て』
部屋に戻ると、見知らぬ犬が死んでいた。」で始まり、その犬の死体をどう始末したらいいか、
自転車の荷台に乗せて夜の街をさまようという、カフカあたりの実存主義文学を思わせる作品。
(あ、私、カフカは『変身』を読んだくらいで、あまり詳しくないので、間違っていること、
 生意気なことを言っていたらすみません。)
そして、このまま主人公はいつまでもさまようのかと思うと、章が変わり、第2章では、
アパートの隣に住む画家が、犬の死体を自転車に積んだ男とすれ違うところから始まります。
ホームレスのテントで暮らすようになる画家。
第3章は不登校の高校生が包丁を買うところから始まり、人を刺すまで。
この展開はだいたい予想がついたというか、いかにも現代のニュースそのままのような展開だと
思うのですが、やはりこの高校生の心理描写が迫力というか。
よく犯罪者が「人を殺せ」という声を聞いて刺したと報道されることがありますよね。
この高校生は「包丁を買え」という声を聞いて包丁を買ったのだが、その後の声が聞こえなくて、
焦りや苛立ちを感じていくところがなんかリアルだなぁと。
第4章はちょっと変わって、フリージャーナリストが失踪者の謎を追って、ある旅館へ行くという話。
その旅館は○○樹海の近くにあり、多くの宿泊者が行方不明になっているという。
そこで、そのジャーナリストは最初の失踪者は自分だったと気付いたり、
○○樹海へ行こうとすると、「犬」が案内したり。
そして第5章は最初の犬を捨てる男の視点に戻って終わる。
うーん、「犬」のイメージとか、話がぐるぐると回るような、夢の中のような、
なんか不思議な読後感、不可解なところが、私は好きなんでしょうかね?

とにかくものすごーく暗い本なので、お勧めはしません。図書館でも人気ないのか、
もしかして借りるのは私が最初? しおりの紐が、使っていないままにはさんでありました。

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