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紅楼夢 [本]

今年もキンモクセイの季節が終わってしまいました
実は3年前のキンモクセイの季節に書き始めた記事があるんです
毎年、キンモクセイの香りが漂ってくると、続きを書いてアップしようと思うんですが、
完成できない間に季節が過ぎてしまって、なんかアップする意欲をなくしていたんですが、
さすがに今年こそはアップしようかと‥‥

キンモクセイで、ちょっと思い出すのが、『紅楼夢』の中でも一番の悪女、金桂(きんけい)
広大な地所に桂花(モクセイ)ばかり栽培していたので「桂花の夏家」と言われていた
裕福な商家の一人娘としてわがままに育った彼女は、
請われて薛蟠(せつばん 彼も紅楼夢中第一の悪人)の正室となるが、
金桂は、薛蟠の妾になっている香菱(こうりょう)が気に入らない。なのでひまつぶしに
香菱という名前を「菱(ひし)の花に香りがあるだなんて」と言いがかりをつける。
「菱ばかりではございません。蓮(はす)の葉だって、なんともいえぬいい香りがございますわ」
「それじゃお前にいわせると、蘭や桂花は香りがよくないというわけだね」
と言われて、香菱は思わず、「蘭や桂花の香りはほかの花とちがって、また格別で‥‥」と
いいかけて、はっとしたがもう遅かった。
金桂の実家からついてきた女中の宝蟾(ほうせん)が、
「まあ失礼な! あんたはなんで奥さまのお名前を呼びつけにするのよ!」とわめき立てた。
香菱があやまると、金桂は、香という字が気に入らないから換えろという。
「今ではこのからだまですべて奥さまのものでございます。名前一つ換えるくらいのことでおたずねいただいては、かえって痛み入ります」
ということで、香菱は秋菱と名前を変えられてしまう。
Kouroumu5.gif
(中央公論社『中国劇画 紅楼夢』より)
‥‥権力者の横暴と、それに翻弄される女性。ひどい話だなぁと。

この香菱、本名を甄英蓮(しんえいれん)といい、蘇州の由緒ある家の一人娘として生まれ、
年老いた両親に可愛がられて育てられていたのだが、
祭り見物に行った先で人さらいにあってしまう。それでも、
きちんと本妻として迎えようと、彼女を買ってくれた若い男がいたのだが、
新婚の部屋などを整えようと、3日後に迎えに来るからと言って帰ったあとで、
人さらいは別の男に二重売りをしてしまう。その男が裕福な名家の極道息子 薛蟠。
彼女を手に入れるために、人さらいを半死半生の目にあわせたのはいい(?)として、
先に買ってくれた男も殺してしまって自分の妾にする。
こんな非道をしても、役人も自分の得ばかり考えて、お咎めなしという有様。

薄幸の運命に翻弄される香菱だけど、『紅楼夢』の数多い脇役の一人にすぎないんです。

私が『紅楼夢』を読んだのは、もうずいぶん昔のことだ。
岩波文庫だったと探してみたら、3冊見つかった。
Kouroumu4.jpg
第一巻の奥付には、「1984年4月10日 改訳第11刷発行」とあった。
だけど、〔全12冊〕となっている。
え?長い物語ではあるけど、この岩波文庫を12冊も読む根気はあったかなぁ??
実は、どこまで岩波文庫で読んだか覚えがない。

その後、こういう本を見つけて購入したのだった。
中央公論社から1993年に出版された『中国劇画 紅楼夢』
Kouroumu3.jpg
中国人絵師による優美な絵は、女性の着物や豪華な室内装飾、
贅沢な暮らしぶりがよくわかって、物語に入り込めていい。
そして、岩波文庫と同じ訳者の文章が添えられている。
Kouroumu.gif

この物語を読もうと思ったのは、「中国の源氏物語」と言われていることと、
テレビの劇場中継で、中国の女性だけで演じられる越劇の『紅楼夢』をたまたま見たこと。
賈宝玉(か ほうぎょく)と林黛玉(りん たいぎょく)の通俗的な悲恋物語として、
衣装も豪華だったし、黛玉が花を葬るシーンなどは歌と踊りで美しかった。
(まさに、中国のタカラヅカだった)
Kouroumu2.gif

しかし岩波文庫版『紅楼夢』を読み始めると、最初に、石が霊性を持って、
下界紅塵に下りて経験したことを書いてできたのがこの書だとか、
出世を求める俗な男の物語など、とにかく登場人物の名前も覚えられない程、
多くの人のことが事細かに続く。そして、やっと名門貴族の貴公子・賈宝玉と
病弱だが詩才抜群の美女・林黛玉が登場しても、
周囲の腰元や下人などまでの多くの人々の話がクドクドと続く。

あっさりした日本食と違って、素材も様々、料理法も複雑な中国料理の味わい?

ちょっと退屈しながらも、読んでいったのは、
清朝貴族社会の豪華な日常生活が
その裏のドロドロした事まで含めて細かく描かれているのが、
異国趣味もあって、興味深かったせいかもしれない。
運命や周囲の人々の思惑に翻弄される女性たちの哀れさとか、
市井の人々や下々の悲惨な生活なども描かれる。
そして、栄華を極めた賈一族が没落していく様子は感慨深い。

この物語、中国の人は大好きのようですね。
我が家にホームステイに来た中国の柯さん。
筆談していて、文学の話になり(彼は川端康成や村上春樹も読んだそう)
私が『紅楼夢』と書いて、読んだと言うと、彼は非常に喜んで、
妻がとても好きだと言った。彼は『三國演義』と書いて、
自分はこっちが好きだと。そして、『四大名著』と書いて、
『水滸傳』『西遊記』『三國演義』『紅楼夢』と教えてくれた。

ただ、私、『紅楼夢』が好きか?と言われると‥‥
確かに大作で、壮大な物語だけど、どうも主人公のキャラクターが好きになれない。

宝玉は甘やかされて育ったわがままなお坊ちゃんというカンジだし――
私は、賈家に君臨するご隠居(宝玉の祖母)史太君(し たいくん)が
溺愛のあまりスポイルしちゃったんだと思う。

林黛玉はひがみっぽい性格がどうも‥‥

宝玉と黛玉が幼馴染で、お互いに意識しすぎて、思いがすれ違ってしまうというのは、
少女マンガにもよくあるパターンなんだけど、黛玉のひがみっぽい性格もその原因だし、
宝玉の周囲の人に、嫁には向いていないと思われるのは病弱なせいだけじゃないと思う。

私も嫁にするのなら、林黛玉より薛宝釵(せつ ほうさ)の方がいいと思う。
宝釵の家名や立身出世を口にする常識的なところを、宝玉は俗っぽいと嫌うけど、
それって生活していくには大切なことじゃない?
薛宝釵のような学級委員長タイプの優等生は男性から見て魅力がないのかなぁ‥‥?

宝釵は宝玉と結婚させられるので、黛玉ファンからは恨まれるかもしれないけど、
宝釵だって被害者(?)なんだから。
穏やかな性格の宝釵、もっとイイ男に嫁いでいれば‥‥と、私は宝釵の方に同情する。

紅楼夢で悲劇的でない末路を迎えるのは、賈探春(か たんしゅん)とか、李紈(りがん)とか、
控えめで思慮深い性格の女性だけど、あまり彼女たちには魅力を感じないんだけど。

いっそ、王煕鳳(おう きほう)の、妾を自殺にまで追いやったり、高利貸しをしたりと、
自分の才覚で行動していく姿は、悪女かもしれないけど魅力的だ。

そして、庶民の劉(りゅう)ばあさんのしたたかさは、なかなか痛快でした。

amazonで見たら、『中国劇画 紅楼夢』中古であるようですね。
『紅楼夢』がどんな物語か知りたい方にはお薦めです。

中国劇画紅楼夢 (第1巻) (Chuko★comics)

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  • 作者: 曹 雪芹
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1993/11
  • メディア: 単行本



中国劇画紅楼夢 (第2巻) (Chuko★comics)

中国劇画紅楼夢 (第2巻) (Chuko★comics)

  • 作者: 曹 雪芹
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1993/12
  • メディア: 単行本



良かったら、岩波文庫全12巻読破にチャレンジしてみてください。

紅楼夢 1 改訳 (岩波文庫 赤 18-1)

紅楼夢 1 改訳 (岩波文庫 赤 18-1)

  • 作者: 曹 雪芹
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1972/01
  • メディア: 文庫



平凡社ライブラリーの『紅楼夢』もあるようです。

紅楼夢 (1) (平凡社ライブラリー (162))

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  • 作者: 曹 雪芹
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 1996/09
  • メディア: 新書



タグ:中国文学
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コメント 4

たまのママ

ほぉ~・・・
中国版、源氏物語。
「私も嫁にするのなら、林黛玉より薛宝釵(せつ ほうさ)の方がいいと思う」
・・・そうか~。。
源氏物語は最初から最後まで読みました。
いろんな人が書かれているけど、私は“円地文子”さんのが一番わかりやすく、読みやすかったです。
でも、理解するのには何回も読まないと判らない部分とかあって、難しいですね。
これもきっとそうなんでしょうね。。
菱や蓮の花の匂い・・・判りますよ~。中国茶で味わったことがあります。。
桂花もv。香りのある花、好きです。

金木犀の頃になるとしーちゃんが思い出す一冊なのですね。。
by たまのママ (2010-10-24 14:21) 

しーちゃん

たまのママさん、コメントありがとうございます。私も源氏物語大好きです。最初に谷崎潤一郎の訳で読み始めたけど、難しくて‥‥、円地文子訳を読んで、あの雅で優美な世界に浸ることができました。田辺聖子の源氏は人物が身近に感じられて、また興味深く読みました。
紅楼夢、様々な女性が登場して、豪華な物語です。
by しーちゃん (2010-10-26 22:36) 

スー

人生の宿題がひとつ増えました。
『紅楼夢』を読むこと。
by スー (2010-11-03 10:42) 

しーちゃん

スーさん、nice! & コメント、ありがとうございます。『紅楼夢』とにかく長い物語(作者の曹 雪芹も未完)で、私も文庫でははたしてどこまで読んだのか覚えがないのですが、中国の人が『四大名著』として大好きな物語だけあって、膨大な登場人物それぞれ興味深いです。
by しーちゃん (2010-11-09 02:04) 

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