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水野英子『星のファンタジー』 [マンガ]

私のお宝本の紹介です。
『水野英子珠玉短編集 星のファンタジー』
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朝日ソノラマのサンコミックス
昭和43年(1968)8月20日初版発行 
私が持っているのは昭和46年(1971)7月5日に発行された4版です。

昭和46年ということは、私は中学2年。水野英子が大好きだった私が
自分のお小遣いで買ったんでしょうね。260円と表示されています。

収録されている作品は
●青い星の夜
●カーニバル!
●みかげ石
●青いバラを食べた王さま
●トゥオネラの白鳥
●ある雪の夜の物語
●人魚が火をともす
●星の子
●ガラスの天使
●二つの太陽 1959年7月作
 あとがき(水野英子)

『星のファンタジー』というのは単行本のタイトルで、
『星のファンタジー』というタイトルの作品はありません。

『青い星の夜』 1957年7月作
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心に染みる、まさに珠玉の短編(20ページ)です。
あとがきで水野英子が書いていますが、
 「青い星の夜」は私の一番好きな作品です。
 デビューして約一年目、当時の私をとりまく素朴な生活が、そのままにじみだしたようなこの物語は、最初わずか十一ページの短編でした。(中略)
 ともあれこの作品は出来がよかったということで、八十ページの別冊ふろくの仕事(赤い靴)をもらい、次に本格的連載「銀の花びら」への道をひらいた意義あるものでした。

水野英子のいわば出世作となったわけですね。
水野英子は15歳でデビューしていますので、17歳頃の作品でしょうか?
あらすじ
 養豚場の手伝いをして、もらったお給金で弟たちに卵を買って食べさせてやるような
 貧しい少女、とし子。彼女は雑貨店のかざり窓の赤い靴がほしくていつも眺めているが、
 とても買ってもらえないことはわかっている。
 町の星まつりの日、とし子はわんぱく小僧たちにいじめられていた子犬を助けてやる。
 星まつりの夜にながれ星を見たものは、のぞみがかなうといういいつたえがある。
 とし子はお星さまに「どうか だれかがあの靴をかってゆきませんように」と願う‥‥
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まだ水野英子の華麗な絵になる前の、手塚治虫の影響がわかる絵です。石ノ森章太郎にも似ていますね。
「ブタ屋」とからかわれたり、「うわーっ たまごだーっ」と弟たちが喜んだりするところ、
貧しかった当時1957(昭和32)年の生活がにじみだしているようです。
(私が読んだ1971(昭和46)年には、もうそんな貧しさは過去のことになっていました)
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それゆえに、星に願いをかける とし子のせつない想いと、
ちょっとロマンチックなラストが清らかに心に染みました。

『カーニバル!』 1963年7月作
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水野英子の華麗な絵が素敵!
 捨て子でジプシーに育てられたマリエッタは、カーニバルの夜、
 自分が公爵さまのお姫様だと言われるが‥‥
外国のミュージカルか、レビューのような、おとぎの国か、夢の中のように
華麗にテンポよく進んでいくストーリー。ジプシーの育ての親がほんわかします。

『みかげ石』 1962年11月作
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 謀反のために城がおち、落武者となった白鷹は、みかげと呼ばれる
 美しい姫に助けられるが‥‥
わずか8ページの作品 水野英子が描く日本の姫君はしっとりと美しい。

『青いバラをたべた王さま』 1063年11月作
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 むかしむかし アラビアに たいそう たべることのすきな 王さまがいました
 めずらしいものを食べるのが大好きな王さまに、謀反をたくらむ大臣は、
 青いバラでつくったゼリーを食べさせ、食べた王さまはブタになってしまう。
 大臣はさらにお妃さまを閉じ込め、ファナ姫もとらえようとする。
 さぁ、ファナ姫は――?
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アラビアンナイトの世界。マンガならではのユーモアと、
エキゾチックなおとぎの世界が素敵!

『トゥオネラの白鳥』 1962年7月作
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この単行本を買った当時、私が一番好きだった作品です。
暗くて救いのない悲劇なんですが、ちょっと大人の世界を覗くような気持ちがしました。
あらすじ
 貧しい夜間大学生 内日(うつい)は、アルバイトを課長とけんかしてやめ、
 それまでの給料で、シベリウス作曲の「トゥオネラの白鳥」の古レコードを買う。
 トゥオネラとは北欧の伝説にある死の国を流れる河の名
 レコードを逆にまわすと、内日はトゥオネラと現実の間の世界に入り込んでしまい、
 そこで、このレコードをききながら自殺した女性と会う。
 新しいアルバイトを紹介された内日だが、届け物をする間に金を盗んだと疑われ‥‥
この作品を読んだだいぶ後で「トゥオネラの白鳥」の曲を聴いたんですが、
なるほど‥‥死の国を流れる河に浮かぶ白鳥‥‥しっとりと暗い曲ですね。

『ある雪の夜の物語』 1960年1月作
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オー・ヘンリー「賢者の贈り物」ですね。
ページを横位置にして描かれています。
あとがきによると、
牧美也子、松本晟(零士)、ちば・てつや、高橋まこと、水谷武子諸氏とともに、雑誌ではできない仕事をしようという意気ごみではじめた単行本「ゆりかご」に掲載したものですが、結局みんな雑誌がいそがしくて二巻でおわりになってしまいました。」とのこと。

『人魚が火をともす』 1959年8月作
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 人魚の呪いの伝説があり、夜は誰も海に近づかない浜の村
 こゆきは継母に言いつかって、水汲みに海のそばの井戸まで行くと、
 そこで隠れキリシタン一団の長、アヤ姫に会う。
 彼らは人魚の伝説を利用して、この浜を隠れ家とし、幕府の船を襲う海賊行為をしていた。
 岬にともる人魚の呪いの火は、船出の合図のために、ばあやがともす火であった。
 彼らの仲間の五郎という男を見て、こゆきは生き別れになった兄ではないかと思う。
 アヤ姫も五郎を慕っているようだ。
 だが、五郎はキリシタンを探っている幕府の隠密であった。
五郎を隠密だと知った後、悩みながら五郎をかばおうとするアヤ姫が切ないです。
ラスト、仲間に置き去りにされ、気が狂ったばあやがともす岬の火が印象的でした。

『星の子』 1960年7月作
「星の王子さま」のような星の子のメルヘンチックなファンタジー
 貧乏な天文学者 五郎は、ある夜、望遠鏡を覗いていて、
 小さな星がこちらにやってくるのを見る。気がつくと
 チルという はねの生えた女の子がいて、その小さな星から来たと言う。
 チルは五郎と一緒に町に出て、目が見えない男の子の目を見えるようにしたり、
 踊れなくなったバレリーナの足を直したりする。
 当然、そんなことを研究会で発表しても信じてもらえない。
 だが、翌日、チルは自分の星からお花を持ってくる。
 その花は青い水晶のように輝き、砂金の土からはえている。
 それを見せられた研究会のメンバーは欲に目がくらんで‥‥
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お約束どおりの展開ですが、ラストの1コマがとても素敵です。

『ガラスの天使』
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この作品だけ、いつの作か書いてなかったのですが、繊細で華やかな絵から、
この単行本の中では一番後の作品ではないかと――ネットで検索したら1965年作とか
『白いトロイカ』(1964年52号~1965年34号 週刊マーガレット)の頃ですね。
宝石泥棒のドタバタは『ハニーハニーのすてきな冒険』(1966年9月号~1967年8月号 りぼん)
を思わせます。
ストーリーはとてもロマンチック
 ある国の皇后さまの「星の天使」というダイヤの指輪が盗み出され、
 宝石泥棒の黒夫人に渡るが、黒キツネとの争奪の中、指輪は雪道に落ちてしまう。
 そこにおもちゃ屋のサンタがおもちゃを落としてしまい、指輪を拾った
 リサは、サンタに渡そうとすると、「そんなものおまえにやるよ」と言われ、
 喜んで家に持って帰り、病気で寝ている母親に「ガラス玉だけど」とプレゼントする。
 リサの亡くなった父は皇后さまの宝石管理人だったが、ある日ネックレスがなくなって、
 責任をとって辞めたのだった。あとで皇后さまの子ネコのいたずらだとわかったが、
 父はお城には戻らなかった。母親は「宝石は人をめくらにするものなのよ、
 わたしたちにはガラスでじゅうぶん」と言う。
 クリスマスの日、皇太子は町の人をお城に招く。
 リサは昔、母親が着たドレスと拾った指輪をはめてお城へと行く――
シンデレラのようなおとぎ話ですね。皇太子がとても優しくて素敵です。
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この宝石泥棒の黒夫人は、もしかしてドロンジョの原型?

『二つの太陽』 1959年7月作
「そのむかし太陽はふたつあった」と始まる、神話のようなスケールの大きな話。
 一つの太陽が沈むと、もう一つの太陽が昇るので、地上に夜はなかった。
 平野に住む人間の長老の息子シンバは、太陽はひとつでたくさんと考え、
 太陽を殺そうと、太陽に矢が届く山のいただきへ登ろうとする。
 太陽をまもり神とする山の国の長老の娘ロアナは、花をつみに来て、
 恐竜に襲われたところを、シンバに助けられる。
 お互いにひかれあう二人だったが‥‥
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ラスト、太陽が粉々にくだけて散ってゆき、星になるところが迫力でした。

最近は電子書籍が普及してきて、こういう昔の作品が電子書籍化でまた読める可能性が
出てきたことは嬉しいことです。まだこの単行本は電子書籍化されていませんが、
水野英子が、トキワ荘時代、U.マイアというペンネームで、
石森章太郎(当時)、赤塚不二夫と合作した作品がeBookで読めます。
赤い火と黒かみ/星はかなしく くらやみの天使

U.マイアについての詳しい説明もあります

水野英子の以下の作品はeBookで読めます
星のたてごと 白いトロイカ ハニーハニーのすてきな冒険 ブロードウェイの星 ファイヤー!


過去記事
水野英子『星のたてごと』 http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2009-02-25
水野英子『白いトロイカ』 http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2009-12-17

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神奈川のしーちゃん

水野英子さん、やっぱり素敵ですね。
絵ももちろんですし、ストーリーがロマンチックなのが多いんですね。
あら・・・しーちゃん、私と同い年だワ。(共通点多いですよね)
でも、私はそのころ、コミック単行本って買わなかった・・・いえ、買えなかったのかな?(お小遣いって中2コース買ったら終わりだったもんなぁ・・・)
高校頃になって、気に入ったものを少しずつ買い始めた気がする。
週刊マーガレットとかから切り取ったマンガをファイルしてたのが、先日物置を整理していて見つかり、懐かしいやら笑っちゃうやら・・・
和田慎二の「銀色の髪の亜里抄」なんかもありましたよ。
和田慎二は割と好きで、「クマさんシリーズ」は、本屋でバイトしてた頃、初版限定サイン入り単行本も買いましたっけ。
今でも大事にしてますよ。
あぁ、懐かしいなぁ・・・
しーちゃん、もっといっぱい紹介してください!
by 神奈川のしーちゃん (2011-02-07 00:26) 

しーちゃん

神奈川のしーちゃん、コメントありがとうございます。私と同い年なんですか!名前も同じだし、なんか共通点が多くてビックリです。和田慎二の「銀色の髪の亜里抄」私もファイルして持ってますよ!お小遣いが少ないから、なかなかコミック単行本って買えなかったですよね。だから、当時の私がいかに水野英子が好きだったかがわかるんですけど。絵も素敵だったし、ストーリーがロマンチックで、少女のあこがれの世界でしたね。
by しーちゃん (2011-02-07 09:55) 

elecoustic

こんにちは。勝手ながら、「復刊ドットコム」の投票コメントにリンクを貼らせていただきました。ありがとうございます。
http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=4850

by elecoustic (2011-04-27 16:07) 

しーちゃん

elecousticさん、「復刊ドットコム」の投票コメントへのリンクありがとうございます。この本に寄せられた熱いメッセ―ジを読んで、同じ水野英子ファンとしてとてもうれしいです。あ、カラーページが復刊されたらとてもうれしい!買います!
by しーちゃん (2011-04-30 13:33) 

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