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岐阜県美術館「日韓近代美術家のまなざし」展 [美術]

7月9日(木)、パートが休みだったので、この日から始まった
岐阜県美術館の
「日韓近代美術家のまなざし―『朝鮮』で描く」展を見てきました。
Korean&Japanese-1.jpg

岐阜県美術館の後援会員になっているので、年会費3,000円で、
全ての企画展が一度ずつ無料で見られるのです。
(さらに岐阜県現代陶芸美術館の企画展も一度ずつ見られるんですよ!)

前回の企画展「てくてく現代美術世界一周」展へ行ったのが3月8日(日)
(とても楽しかった。感想はこちら↓)
岐阜県美術館「てくてく現代美術世界一周」展 その1
http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2015-03-12
岐阜県美術館「てくてく現代美術世界一周」展 その2
http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2015-03-14

久しぶりの企画展なので楽しみにしていました。
ま、日韓関係が微妙なこの時期に‥‥って気もしたんですけどね。

私は韓国好きですよ。実は昔、ハングル勉強していたことがあるんです。
いいえ「冬ソナ」がブームになる前です。
その頃は、韓国語を習っているというと
「なぜ韓国語『なんか』習うの?」って聞かれたものです。
つくづく「冬ソナ」とヨン様は偉大だと思いますね。

私が韓国語を習い始めたのは、ハングルが面白かったのと、
韓国語と日本語ってとても似ているなーって驚いたから。
韓国の風俗も日本と似ているようで違っていたり、そんなところも
面白いなぁと魅力だったんです。が、私のようにミーハーで習い始めても、
韓国併合、植民地支配、抗日運動‥‥両国の「不幸な過去」ってのが
わかってきて、近くて似ているだけに、近親憎悪的な?
なかなかデリケートなところがありますよね。

この展覧会も、タイトルの「朝鮮」にカッコがついているのは、
日本統治時代を「朝鮮」と呼ぶか「韓国」と呼ぶかで問題となり、
20世紀前半期の視点から、あるいは日本人の視点から叙述する場合は「朝鮮」と表記し、 その際に限り鍵括弧で括っている。(図録より)とのこと。

でも、9日(木)せっかくの休みだから、少し遠い美術館でもいいかなとか
考えてたんです。岐阜県美術館ならパートがある日でも行けるし。
だけど私のことだから、ズルズルと過ごして、昼を過ぎて、
これでは岐阜県美術館以外は行けないなーと思いながら、
さらに時間は過ぎて、家を出たのが3時過ぎ (^▽^;)ゞ
美術館に着いたのは4時近くになっていました。
岐阜県美術館は6時まで開館してくれているので、
私のようなものにはありがたいんですけどね。
(入場は5時30分まで)

建物に入るとエントランスホールにはポジャギが飾られていました。
韓国のパッチワーク、薄い透ける布が上品できれいです。

そしてエントランスホールの中央にはドーンと机が!
館長の机だそう。今年4月から日比野克彦氏が館長になられたんですよね。
美術館への意見を書いて投函できるようになっていました。

企画展の入口は、いつもは所蔵品展の出口のところ。
入ると、益田玉城(ますだ ぎょくじょう)1881-1955《笛の音》1920年
民族服の少年が笛を吹いている優雅な絵

長谷川路可(はせがわ ろか)1897-1967《清韻》1940年
琴を弾く女性と年配の女性が端正に描かれています。
琴の稽古中の妓生(キーセン)とその指導役の女性を描いたものだろうと。

土田麦僊(つちだ ばくせん)1887-1936《平牀》1933年
低いベンチに坐るチマチョゴリ姿の女性と傍らに立つ女性
下図も展示されていて興味深かった。

この3点、とても私の好みの優美で端正な絵でよかった。

そしてチラシ表面に使われている
藤島武二(ふじしま たけじ)1867-1943《花籠》1913年
女性の頬の色使いがちょっと傷のようにも見えてしまうんだけど‥‥

‥‥と、「朝鮮」と聞いてすぐ思い浮かぶ民族衣装の女性の絵が
並んでいます。

絵の説明板をよく見ると、色のラインで、
「朝鮮」に旅行・短期滞在した日本人美術家、
「朝鮮」に住んでいた日本人美術家、
そして、韓国人美術家、と分けられていました。
(色のない「その他(滞在経験なし等)」もありましたが)

そして「朝鮮」の景勝地・金剛山の絵。

このあたり、韓国へ旅した日本人画家が、異国情緒あふれる
モチーフを描いたってカンジですね。
日本に来た外国人が「フジヤマ、ゲイシャ」って言うとこですか。

でも、ここで終わらないのがこの展覧会のすごいところ。
いつもの企画展示室はもちろん、所蔵作品展室の一部と、
新しくできた広い展示室2(いつもは所蔵作品―それも現代美術っぽいの―が
展示されていることが多い)も使ってのすごい展示数でした。
(出品リストだけでも8ページ!)

でも正直に言うと、知らない作家が多いし、説明を読むのにも時間がかかって、
ちょっと疲れたかな。

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日本統治時代には、韓国には多くの日本人が住んでいたわけで、
美術教師として赴任したり、挿絵や漫画を描く仕事で
移住した人がいたそうです。
これまでほとんど注目されてこなかった戦前の在「朝鮮」日本人作家の作品も、 最新の研究成果をふまえてご紹介します。(チラシ裏面より)

清水東雲 生年不詳-1927
今村雲峰 生没年不詳
加藤松林人 1898-1983
らは「朝鮮」の風俗を描いた絵葉書をたくさん制作したそう。
こういった絵葉書は、郷愁をさそう「朝鮮」のイメージとして
多く日本人に消費されたそう。旅行の記念品みたいなものかな。

安藤義茂 1888-1967 《泥亀売りの女》1927年
って作品が迫力があってよかった。

韓国生まれの日本人美術家も知りました。
入江一子1916- 
大邱に生まれ、1934年女子美術専門学校(現・女子美術大学)入学のため
初来日した時の日本の印象は「箱庭のよう」だったそう。
《松根油をつくる朝鮮のひとびと》1945年、色づかいがきれいだなと見ました。
戦後はシルクロードを旅して描いていらっしゃるそうですね。

山口長男(やまぐち たけお)1902-1983
私にはうーん?って抽象画ですが《庭》1937年制作にしては
斬新な表現じゃないですか?
さすが「1927年に東京美術学校を卒業して、1931年までパリに留学」って。

そして、韓国の美術家たち

1922年朝鮮総督府の主催による第1回朝鮮美術展覧会が「京城」で開かれ、
以降1944年まで計23回実施されたそう。
日本の帝展をモデルとするこの展覧会は「官展」として社会的に大きな
影響力をもったとのこと。もちろん在野の活動もいろいろ展開されたそうですが。

「朝鮮」には官設の美術学校はなく、美術を志す者は、
東京美術学校(現・東京藝術大学)へ留学したと。

韓国の美術家って私知らないなぁ‥‥ヴィデオ作家のナム・ジュン・パイクくらい。
あ、李禹煥(リ・ウーファン)は韓国?日本?今や世界的に活躍されてますね。

なので、チラシ裏面に
高羲東(コ・フィドン)や李仁星(イ・インソン)、李快大(イ・クェデ)、李仲燮(イ・ジュンソプ)ら、日本との交流をもつ韓国近代美術の巨匠たち。
っていう作家、全く知りませんでした。

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岐阜県美術館の門のところにも使われている、民族衣装の男性像が
高羲東(コ・フィドン)1886-1965
《程子冠(チョンジャクアン)をかぶる自画像》1915年
この作品、東京藝術大学蔵で、東京美術学校の卒業制作と言われているそう。

李仁星(イ・インソン)1912-1950は
《黄色いワンピースの婦人像》って水彩の作品が展示されていました。
モダンで都会的な作風だなと。
「朝鮮戦争中に警察ともめごとが起こり、流れ弾に当たり死亡」とのこと。

李仲燮(イ・ジュンソプ)1916-1956
この画家と妻を扱った映画(ドキュメンタリー)
「ふたつの祖国、ひとつの愛―イ・ジュンソプの妻―」
7月18日(土)14:00~岐阜県美術館で無料公開されるってことだったので、
見たかったけど、やはりパートがあって行けませんでした。
LeeJoongseop.jpg

奥さんは日本人・山本方子(まさこ)三井財閥企業の役員を父に持つ令嬢
(え!? 現在もご存命でこの映画に出演していらっしゃるの!?)
 アジアの芸術家として初めてニューヨーク近代美術館(MoMA)に作品が収蔵され、遺された絵画は今や億の値がつく画家、イ・ジュンソプ。韓国では知らぬ者はいないジュンソプは、生前キャンパスも買えないほど貧しく、39歳で息を引き取った。(映画のチラシ裏面より)
LeeJoongseop2.jpg

へー。でも展示されていたイ・ジュンソプの絵は、私には
「‥‥うーん??なんじゃこりゃ」ってカンジだったんですけど‥‥
《夫婦》1953年(展覧会のチラシ裏面上段中)

展覧会の図録の表紙に使われている《旅立つ家族》って絵は、
岐阜県美術館では展示されていませんでした。
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私がこの展覧会でいいなって見た絵は、
何と言っても、山口蓬春1893-1971《市場》1932年
市場の白い天幕が画面を区切っていて、その間に見える市場のにぎわい、
後方の家の黒い屋根と、構図がすごく面白かった!
(この絵、岐阜県美術館の前期と、北海道立近代美術館の半期のみの展示なんですって?!
見られてラッキー!!)
小下図やスケッチブック等も併せて展示してあって興味深かったです。

岐阜県美術館の所蔵作品展で何回か見ている
長谷川朝風1901-1977《朝鮮三題 四温(草稿)1940年》
市場を描いた洒脱で軽妙な絵でいいなと。
長谷川朝風、岐阜県生まれなんですね。兄を訪ねて何度も
「朝鮮」へ渡っているそう。「飯田蛇笏に俳句を学ぶ」
あ、いかにも俳人でもあった人の絵らしい!

吉田博1876-1950《大同門》1936年頃は、
懐かしさを感じる詩情あふれる風景の木版画で良かった。

そしてやはり、その人生も含めて、この展覧会で一番インパクトあったのが、
曺良奎(チョ・ヤンギュ)1928-没年不詳 《農夫と牛》1957年
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(図録左下)
厚塗りの、とても迫力のある絵だなって見て、説明文を読むと、
慶尚南道晋州(キョンサンナムド チンジュ、現・晋州市)郡に生まれる。1946年、晋州師範学校卒業。南朝鮮労働党の活動に傾倒したため官憲に追われ釜山に向かい、1948年に日本に密航。倉庫で働きながら武蔵野美術学校(現・武蔵野美術大学)に通うが、1952年に中退。日本アンデパンダン展や自由美術家協会展に出品し、1953年にはタケミヤ画廊で初個展。1955年、自由美術館協会会員となる。1958年安井賞候補新人展に出品。1959年村松画廊で2回目個展。1960年、新潟港から北送船で北朝鮮に渡る。1967年まで日本向け雑誌に挿絵を手がけたが、以後消息不明。(図録より)
‥‥!!!
曺良奎の絵は最後のコーナーでも5点まとまって展示されていましたが、
社会から抑圧された怒りや哀しみのようなものが迫ってくるような‥‥
私はベン・シャーンの絵に似てるなって見ました。

そして、最後のコーナーに展示されていた
全和凰(チョン・ファファン)1909-1993《ある日の夢(銃殺)》1950年
十字架に磔にされて銃殺される人、絞首される人が、悪夢の中のような
おぼろげな暗い中に描かれています。
「1919年『朝鮮』での三・一独立運動と1950年6月25日に勃発した
朝鮮戦争とが二重のイメージをつくっていると思われる」と。
‥‥もう、こんな悪夢を見るようなことが起こりませんように。

正直、かなり見るのに疲れた展覧会でした。が、日韓の困難な時代に生きた、
今まであまり注目されてこなかった画家や、私の知らない韓国の画家について
知ることができて、日韓関係が微妙な今の時期だからこそ、意義のある
展覧会だと思います。この展覧会は2009年に美術館連絡協議会に企画が提案され、
日韓の研究者との共同研究によって実現されたものだそう。

また図録が分厚くて素晴らしい!!(図録が自立?します)
Korean&Japanese-4.jpg
これ見たら、あんなに展示作品あったのに、まだ展示されていない作品や、
展示替えのある作品もありました。
作品や人物の解説も詳しくて読み応えあります。
日本語とハングルで表記されているので、韓国語を学ぶ人にもいいかも。
2,400円が後援会員割引で2,200円になりました。


この展覧会、
神奈川県立近代美術館 葉山 2015年4月4日(土)~5月8日(金)
新潟県立万代島美術館 5月16日(土)~6月28日(日)
と巡回してきて、

岐阜県美術館は、7月9日(木)~8月23日(日)

その後、
北海道立近代美術館 9月1日(火)~10月12日(月・祝)
都城市立美術館 10月23日(金)~12月6日(日)
福岡アジア美術館 12月17日(木)~2016年2月2日(火)
と、巡回する予定だそう。

岐阜県美術館: http://www.kenbi.pref.gifu.lg.jp/

「ふたつの祖国、ひとつの愛―イ・ジュンソプの妻―」公式ウェブサイト:
http://www.u-picc.com/Joongseopswife/

展覧会見てから、ブログに感想をアップするのに2週間もかかってしまいました。
夏風邪をひいてあまり体調がよくなかったのもありますが、
図録を読んでいると(展覧会では後半疲れてきて説明文をしっかり読んでないので)
わかってきたこと、考えさせられたこともあり、
あらためて、すごい展覧会だったなと感心しています。

オマケ:
もう存在も忘れていた昔~の私のホームページ
志津子のホームページ」←まだあったんだー!
海外旅行のトップページはこちら:
http://www002.upp.so-net.ne.jp/shizuko/Travel.html
1998年秋に韓国の蔚山・慶州へ行ったことと、
2000年5月にソウルへ行ったことを載せてました。

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