兵庫県立美術館「怖い絵 展」 [美術]
8月30日(水)、兵庫県立美術館まで行ってきました。
「怖い絵 展」をやっています。
ドイツ文学者・中野京子氏が「恐怖」をキーワードに
名画を読み解き、ベストセラーにもなった『怖い絵』シリーズ。
私も図書館で借りて面白く読みましたし、ちょうど
NHK教育テレビ(Eテレ)で取り上げられたのを見ました。
怖い絵 マリー・アントワネット
http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2010-02-03
この展覧会は『怖い絵』の第1巻が刊行されて10周年になるのを
記念して企画されたそう。
何と言っても目玉は、
ポール・ドラローシュ《レディ・ジェーン・グレイの処刑》ですよね!!
2017年の展覧会を紹介した雑誌の記事を読んで、
え?!!!この絵が来るの?!! って驚きました。
実際、展覧会の図録で中野京子さんが書いていますが、
「担当者さんの、涙ぐましい大奮闘」があったようです。
私がこの絵を知ったのは、新聞の日曜版だったかなぁ?
一目見たら忘れられない絵ですよね。なんとむごい‥‥
純白のドレスを着たジェーン・グレイの清楚な姿と、
彼女をこれから襲う恐ろしい運命がわかるだけに戦慄させられます。
ロンドン留学中の夏目漱石もこの絵を見て『倫敦塔』を書いたとか。
夏目漱石『倫敦塔』 青空文庫で読むことができます。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/1076_14974.html
実際は、彼女が処刑されたのは屋外で、着ていたのは白いドレスではなく、
目隠しもされていなかったそう。
政争に巻き込まれて「9日間の女王」となり、わずか16歳で処刑された
悲劇の女王・ジェーン・グレイ。展覧会場を出たところで流れていた
映像によると、メアリ女王はジェーンがカトリックに改宗すれば
命は助けようと言ったのだが、プロテスタントのジェーンは
それを拒み、斬首されたのだと。この絵のジェーンの表情が、
なんとも印象的なのは、そんな自分の運命を受け入れて
覚悟を決めているからなのかと。
さらに、音声ガイドで、ジェーンの首を置く台を探す左手の薬指に
はめられた結婚指輪について、夫とは短くも幸せな結婚生活だったらしい
ことを知って、細部にまで気を配って丁寧に描かれていることに感嘆し、
いろんな感情がわいて胸がつまるように感じました。
これだけチラシ等で絵が使われているんですが、それでも、
展覧会場で実物を見て、その大きさ(251.0×302.0cm)に圧倒されました。
人物がほぼ等身大にに描かれているせいで、まるで目の前で
これから行われる斬首を見ているような迫力なんですよね。
そして、細部まで筆跡も見当たらないような美しい画面に驚きました。
重々しい飾りがついた額縁も素敵!
図録に、ロンドン・ナショナル・ギャラリーのキュレーターが
「この絵に魅入られてじっくりと見る人が多すぎて、その真ん前の床のワックスが すぐにはがれてしまうため、ギャラリーの管理スタッフが定期的にワックスを かけ直さなければならない。(中略) 2003年に巡回展に貸し出されたときには、 すぐに訪問者の不満の声がギャラリー職員に聞こえてきた。」
って書いていたんですが、
ほんとうに、この絵がよく日本に来たなと。
(今頃、ナショナル・ギャラリーでは訪問者の苦情が殺到している?)
そんな《レディ・ジェーン・グレイの処刑》の絵は、
1833年に描かれ、1834年にパリのサロンで公開されて大評判となるが、
その後、ロシア貴族の手に渡り、フィレンツェの私邸に飾られたため、
人目につく機会が減って忘れられていきます。その後、
何人かのコレクターの手を渡ってロンドン・ナショナル・ギャラリーに
寄贈され、テート・ギャラリーにあったが、1928年のテムズ川の氾濫で
失われたと考えられていました。真剣に捜索されなかったのは、
印象派が全盛だった当時、こういうアカデミックな絵は時代遅れと
みなされていたこともあったのではと。そして
1973年に再発見されたという、数奇な運命をたどった絵だそう。
2017年の展覧会を紹介した雑誌の記事で、この展覧会が
東京だけでなく、兵庫県立美術館でも開催されることを知って、
嬉しくなりました。
兵庫県立美術館には、2012年9月5日(水)に
「バーン・ジョーンズ展」を見に行っているんですが、
岐阜からJRの在来線を乗り継いでも行けるんです。
兵庫県立美術館「バーン=ジョーンズ展」
http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2012-09-08
兵庫県立美術館の展覧会の方が東京の上野の森美術館より
先に開催されるってことも、ちょっと嬉しい♡
実は東京は当初別の会場を検討していたが、
この大作の搬入が困難で、上野の森美術館になったとか。
「怖い絵」展の公式ホームページで、土日は大変な混雑なので、
平日の来場をお勧めとか、観覧券は館外で買うとスムーズとかって
あったので、パートが休みだった8月30日(水)、JR岐阜駅発9:39で
大垣、米原、芦屋で乗り換えて、灘駅に12:43に着きました。3,350円
JR灘駅から徒歩約8分で兵庫県立美術館に着きます。
途中、観覧券売ってないかなって思ったんですが、
BBプラザ美術館は「一般売り切れ(大学生のみ)」って表示されていて、
わー、売り切れるほど人気なんだー。チケット売り場で並ばなきゃ
いけないかなーって心配して行くと‥‥
兵庫県立美術館エントランスの看板
チケット売り場は思ったほど並んでなくて、5、6人待ちで買えたので、
せっかくなので(館外で買えたら使わないけど一応プリントアウトしていった)
兵庫県立美術館のHPにあった割引券を出して、
1,400円の観覧料が100円引きの1,300円になりました。
わりとスムーズに買えて良かったーって思ったけど、会場へ入ると
やっぱり混んでましたー。この展覧会は何が描かれているか
説明してもらった方がいいので、音声ガイドも借りました。550円
展覧会は6章に分かれていて、
第1章は「神話と聖書」
ギリシャ・ローマ神話を題材にした怖い絵
この展覧会のもうひとつの目玉ともいえる
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
《オデュッセウスに杯を差し出すキルケー》
薄衣を着て玉座に座る美女は、酒を飲んだ男を動物に変えてしまう魔女。
彼女の足元に転がる豚は、先に犠牲になったオデュッセウスの部下たち。
ウォーターハウスは私の大好きな画家です。
男の運命を狂わせる妖艶な美女―ファム・ファタール(運命の女)と
ロマンチックな物語性―要するに少女マンガみたいなところが―私のツボなので。
この絵でも、キルケーの背後の鏡にオデュッセウスが映っているところが
洒落ているなぁと。
これは兵庫県立美術館の1階にあった記念撮影スポット。
キルケーの背後の鏡に自分を写して撮影することができるのが洒落てます!!
ハーバート・ジェイムズ・ドレイパー《オデュッセウスとセイレーン》
キルケーの島を離れたオデュッセウスらを待ち受ける次なる試練、
美しい歌声で船人たちを惑わせては遭難させる海の魔女セイレーンたちの棲む
島のそばを航行すること。オデュッセウスはキルケーに授けられた知恵で、
船を漕ぐ部下たちの耳に蜜蝋を詰めて歌声を聞こえなくしたが、自分は
歌声を聞いてみたいと、耳栓をせずに、マストに体を縛り付けた。
この絵では、セイレーンは海では人魚だが、船によじ登ってきた時には、
男を惑わすエロティックな美女となっています。耳栓をしていなかった
オデュッセウスは狂乱して、海へ飛び込もうと身をよじっている。
ドレイパーの絵というと、
愛知県美術館「黄金伝説」展で見た
http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2016-04-05
《金の羊毛》も美しくも怖かったなぁ。ギリシャ神話の
追手から逃げるために、弟アプシュルトスを海に投げ込ませて
時間稼ぎしようとしている王女メディアを描いています。
同じセイレーンでも、ギュスターヴ=アドルフ・モッサの
《飽食のセイレーン》は伝承通りの怪鳥として描いていますが、
翼が豪華な毛皮のマントのようにも見えます。
なんか、現代のマンガかアニメの絵ようだなぁと。
第2章で展示されていたモッサ《彼女》は、
巨乳に幼顔で、さらに萌え絵ってカンジ。
どちらもモッサ(1883-1971)の22歳(1905年)の作。
人が並んで鑑賞している中に、見たことのある絵があって、
あれ? これって‥‥ってキャプションを見ると、やっぱり、
岐阜県美術館所蔵のルドン《オルフェウスの死》でした!
黒いリトグラフが有名なルドンですが、これは夢の中のような
幻想的な色づかいで、描かれているのがオルフェウスの生首だって
知らなければ、どこが怖いのかわからないかもしれませんね。
この展覧会、岐阜県美術館の所蔵作品が結構入っていて、
いつも薄暗くてわりと狭い展示室で独り占め状態で見ている作品に、
たくさんの人が鑑賞しているのを見るのは、なんか誇らしい(?)ような
気分(すっかり岐阜県美術館は私の美術館みたいに思ってるwww)
第2章は「悪魔、地獄、怪物」
ヘンリー・フューズリ《夢魔》
この絵(のヴァージョン)は本とかで見たことがあるんですが、
作者の名前まで覚えておりませんでした。
第1章で展示されていたこの作者の
《ミズガルズの大蛇を殴ろうとするトール》は、
愛知県美術館の「ロイヤル・アカデミー」展に出てた絵ですね!
http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2015-04-16
オーブリー・ビアズリーによる『サロメ』のための挿絵も
展示されていました。いかにも世紀末のお耽美な世界!
ハイ、私も大好きでビアズリーの画集も持ってますが。
第3章が「異界と幻視」
ジョセフ・ライト《老人と死》は、
ガイコツが老人に向かって歩いてくるというパッと見ると恐ろしい絵だけど、
音声ガイドを聴くと、重い柴を運ぶのに疲れた老人が「もう死にたい」
というと、死神(ガイコツ)が現れて「何か用か」と言ったという
イソップ寓話の場面で、自分で死にたいと言った老人は
「この重い荷物を運んでほしくて」と答えたという笑い話。
岐阜県美術館所蔵のブレスダン《死の喜劇》や、
岐阜県美術館も所蔵しているけど、ここに展示されていたのは
国立西洋美術館蔵のムンク《マドンナ》とか、
(東京展では、群馬県立近代美術館所蔵のものが展示されるそう)
岐阜県美術館を代表するようなルドンの《蜘蛛》や、目玉――
『エドガー・ポーに』より《(1)眼は奇妙な気球のように無限に向かう》――とか、
マックス・クリンガー《手袋》は、岐阜県美術館も所蔵しているけど、
ここに展示されていたのは兵庫県立美術館所蔵のものでした。
(東京展では町田市立国際版画美術館のものが展示されるそう)
‥‥と、見ている絵も多かったので、人が多いこともあり、
わりと足早に進んでいきました。
第3章の最後に、チャールズ・シムズ(1873-1928)の絵が4点
展示されていました。
《ワインをたらふく飲む僕と君にこれらが何だというのだ》1895年
描かれている男はオーブリー・ビアズリーだと!!
退廃的な雰囲気の中に描かれている天使が幻想的。
《そして妖精たちは服を持って逃げた》1918-19頃 や
《小さな牧神》1905-06 に描かれる日常の中に現れる小さな妖精たち。
《クリオと子供たち》1913(1915加筆)になると、
一見穏やかで美しい絵なんですが‥‥
平和で美しい自然の中で、子どもたちが集まっています。
彼らの視線の先には、歴史を司る女神クリオが座っています。
女神が手にする巻物は血で染まっていますが、それは
1914年、第一次世界大戦によって長男を喪ったシムズが加筆したのだと。
シムズはその後徐々に精神を病んでゆき、
53歳で入水自殺したってことを知ると、
この絵がじわじわと怖く見えてきます。
第4章は「現実」
ゴヤの《戦争の惨禍》は、戦争という狂気の中での人間の蛮行を
描いていて、まさに酷い、怖い。正直見たくない残酷な絵で、
ゴヤの生前には発表されなかったそうですが、ゴヤが見た
戦争の実態、知っておかなければいけないと思います。
ここに展示されていた姫路市立美術館所蔵のゴヤの版画は、
岐阜県美術館「ゴヤの四大連作版画」展で見た中にありました。
http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2009-10-30
そして、男と女が、女性を押さえつけて今まさにナイフで刺そうとしている
という、怖い場面を描いた絵、タイトルも《殺人》
これを描いたのがあのセザンヌだってことに驚きます。
セザンヌは、20代後半~30代前半に、こういった暴力的でエロティックな
作品をかなり描いていたそう。
第5章が「崇高の風景」
愛知県美術館の「ロイヤル・アカデミー」展で見た
http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2015-04-16
ターナー《ドルバダーン城》がありました。
音声ガイドで、ここに描かれたドルバダーン城は、
13世紀、兄弟での争いで勝利した弟が兄を20年以上幽閉した城で、
前景に描かれた人物は、兵士に引き立てられる兄オワインを幻影として
描いているのだろうと。
ロイヤル・アカデミー展で見た時は、荒涼とした谷に立つ廃墟の城の
風情ある風景‥‥くらいにしか見なくて
(その時は音声ガイドも借りてなかったし)
前景の人物には気が付かなかったのですが、そういう歴史を知って見ると、
絵がとてもドラマチックに見えてきます。
ギュスターヴ・モロー《ソドムの天使》が、幻想的な雰囲気で
とても素敵だなぁと見たんですが、音声ガイドを聞くと、
これは「硫黄と火」を雨のように降らせて滅ぼしたソドムの町を
見下ろす天使たちを描いているという、なかなか怖い絵です。
聖書における天使というのは、神の使いとして、ソドムを滅ぼせと
命じられれば、ジェノサイドも辞さない苛烈なものだと知って、
日本人が天使に抱く慈愛に満ちた優しい天使のイメージとちょっと違うなぁと。
第6章が「歴史」
ドラローシュ《レディ・ジェーン・グレイの処刑》をメインに、
その隣の、
フィリップ・ハモジェニーズ・コールドロン《何処へ?》1867年
16世紀風の衣装を身に着けた男女がつり橋を渡る姿。
不安そうな若い女性が、処刑の場所へ向かうようにも見えて、
これは特定の人物や事件を描いたものではないそうですが、
いろんな想像をかきたてられます。
フレデリック・グッドール《チャールズ1世の幸福だった日々》1853年頃
チャールズ1世と家族と廷臣たちが優雅に舟遊びをしています。
美しい王妃と愛らしい子どもたち。餌をもらう2羽の白鳥‥‥幸福そうな
穏やかな絵ですが、その後のチャールズ1世の運命を知ると
この完璧なまでの幸福そうな絵が―よく「怖いくらいの幸福」なんて
言いますけど―じわじわと怖く見えてきます。
今、絵は「何が描かれているか」より「いかに描かれているか」が
重要とされていて、画家にスポットが当たっているように思いますが、
写真も映画もなかった時代には、人々は一枚の絵から、いろんなことを
読み取っていたんだろうなぁって。
絵を自分の感性だけで見るのもいいけど、いろんな背景を知って見ると、
また違った絵の面白さがわかって、深いなぁって思いますね。
この展覧会、見たことがある絵も多かったけど、また違って見えましたし、
やっぱり《レディ・ジェーン・グレイの処刑》は圧巻です!!
ロンドンのナショナル・ギャラリーまでは見に行けないので、
奇跡の機会ともいえるこの展覧会で見ることができて本当に良かったです。
兵庫県立美術館の会期は9月18日(月・祝)までで、
すごく混んでいるそうですね。私が行った8月30日(水)に来場者15万人突破、
9月9日(土)には20万人を突破したとか。
その後、東京・上野の森美術館へ10月7日(土)~12月17日(日)に巡回とのこと。
ショップで図録2,500円はもちろんですが、
クリアーファイルを2種類買いました。各600円。
クリアーファイルは見開きでファイルすることができます。
1つ友人へのお土産で、どちらがいいか聞いたら、キルケーを
選んだので、私用にはレディ・ジェーンが残りました。
怖い絵展: http://www.kowaie.com/
兵庫県立美術館: http://www.artm.pref.hyogo.jp/
「怖い絵 展」をやっています。
ドイツ文学者・中野京子氏が「恐怖」をキーワードに
名画を読み解き、ベストセラーにもなった『怖い絵』シリーズ。
私も図書館で借りて面白く読みましたし、ちょうど
NHK教育テレビ(Eテレ)で取り上げられたのを見ました。
怖い絵 マリー・アントワネット
http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2010-02-03
この展覧会は『怖い絵』の第1巻が刊行されて10周年になるのを
記念して企画されたそう。
何と言っても目玉は、
ポール・ドラローシュ《レディ・ジェーン・グレイの処刑》ですよね!!
2017年の展覧会を紹介した雑誌の記事を読んで、
え?!!!この絵が来るの?!! って驚きました。
実際、展覧会の図録で中野京子さんが書いていますが、
「担当者さんの、涙ぐましい大奮闘」があったようです。
私がこの絵を知ったのは、新聞の日曜版だったかなぁ?
一目見たら忘れられない絵ですよね。なんとむごい‥‥
純白のドレスを着たジェーン・グレイの清楚な姿と、
彼女をこれから襲う恐ろしい運命がわかるだけに戦慄させられます。
ロンドン留学中の夏目漱石もこの絵を見て『倫敦塔』を書いたとか。
夏目漱石『倫敦塔』 青空文庫で読むことができます。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/1076_14974.html
実際は、彼女が処刑されたのは屋外で、着ていたのは白いドレスではなく、
目隠しもされていなかったそう。
政争に巻き込まれて「9日間の女王」となり、わずか16歳で処刑された
悲劇の女王・ジェーン・グレイ。展覧会場を出たところで流れていた
映像によると、メアリ女王はジェーンがカトリックに改宗すれば
命は助けようと言ったのだが、プロテスタントのジェーンは
それを拒み、斬首されたのだと。この絵のジェーンの表情が、
なんとも印象的なのは、そんな自分の運命を受け入れて
覚悟を決めているからなのかと。
さらに、音声ガイドで、ジェーンの首を置く台を探す左手の薬指に
はめられた結婚指輪について、夫とは短くも幸せな結婚生活だったらしい
ことを知って、細部にまで気を配って丁寧に描かれていることに感嘆し、
いろんな感情がわいて胸がつまるように感じました。
これだけチラシ等で絵が使われているんですが、それでも、
展覧会場で実物を見て、その大きさ(251.0×302.0cm)に圧倒されました。
人物がほぼ等身大にに描かれているせいで、まるで目の前で
これから行われる斬首を見ているような迫力なんですよね。
そして、細部まで筆跡も見当たらないような美しい画面に驚きました。
重々しい飾りがついた額縁も素敵!
図録に、ロンドン・ナショナル・ギャラリーのキュレーターが
「この絵に魅入られてじっくりと見る人が多すぎて、その真ん前の床のワックスが すぐにはがれてしまうため、ギャラリーの管理スタッフが定期的にワックスを かけ直さなければならない。(中略) 2003年に巡回展に貸し出されたときには、 すぐに訪問者の不満の声がギャラリー職員に聞こえてきた。」
って書いていたんですが、
ほんとうに、この絵がよく日本に来たなと。
(今頃、ナショナル・ギャラリーでは訪問者の苦情が殺到している?)
そんな《レディ・ジェーン・グレイの処刑》の絵は、
1833年に描かれ、1834年にパリのサロンで公開されて大評判となるが、
その後、ロシア貴族の手に渡り、フィレンツェの私邸に飾られたため、
人目につく機会が減って忘れられていきます。その後、
何人かのコレクターの手を渡ってロンドン・ナショナル・ギャラリーに
寄贈され、テート・ギャラリーにあったが、1928年のテムズ川の氾濫で
失われたと考えられていました。真剣に捜索されなかったのは、
印象派が全盛だった当時、こういうアカデミックな絵は時代遅れと
みなされていたこともあったのではと。そして
1973年に再発見されたという、数奇な運命をたどった絵だそう。
2017年の展覧会を紹介した雑誌の記事で、この展覧会が
東京だけでなく、兵庫県立美術館でも開催されることを知って、
嬉しくなりました。
兵庫県立美術館には、2012年9月5日(水)に
「バーン・ジョーンズ展」を見に行っているんですが、
岐阜からJRの在来線を乗り継いでも行けるんです。
兵庫県立美術館「バーン=ジョーンズ展」
http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2012-09-08
兵庫県立美術館の展覧会の方が東京の上野の森美術館より
先に開催されるってことも、ちょっと嬉しい♡
実は東京は当初別の会場を検討していたが、
この大作の搬入が困難で、上野の森美術館になったとか。
「怖い絵」展の公式ホームページで、土日は大変な混雑なので、
平日の来場をお勧めとか、観覧券は館外で買うとスムーズとかって
あったので、パートが休みだった8月30日(水)、JR岐阜駅発9:39で
大垣、米原、芦屋で乗り換えて、灘駅に12:43に着きました。3,350円
JR灘駅から徒歩約8分で兵庫県立美術館に着きます。
途中、観覧券売ってないかなって思ったんですが、
BBプラザ美術館は「一般売り切れ(大学生のみ)」って表示されていて、
わー、売り切れるほど人気なんだー。チケット売り場で並ばなきゃ
いけないかなーって心配して行くと‥‥
兵庫県立美術館エントランスの看板
チケット売り場は思ったほど並んでなくて、5、6人待ちで買えたので、
せっかくなので(館外で買えたら使わないけど一応プリントアウトしていった)
兵庫県立美術館のHPにあった割引券を出して、
1,400円の観覧料が100円引きの1,300円になりました。
わりとスムーズに買えて良かったーって思ったけど、会場へ入ると
やっぱり混んでましたー。この展覧会は何が描かれているか
説明してもらった方がいいので、音声ガイドも借りました。550円
展覧会は6章に分かれていて、
第1章は「神話と聖書」
ギリシャ・ローマ神話を題材にした怖い絵
この展覧会のもうひとつの目玉ともいえる
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
《オデュッセウスに杯を差し出すキルケー》
薄衣を着て玉座に座る美女は、酒を飲んだ男を動物に変えてしまう魔女。
彼女の足元に転がる豚は、先に犠牲になったオデュッセウスの部下たち。
ウォーターハウスは私の大好きな画家です。
男の運命を狂わせる妖艶な美女―ファム・ファタール(運命の女)と
ロマンチックな物語性―要するに少女マンガみたいなところが―私のツボなので。
この絵でも、キルケーの背後の鏡にオデュッセウスが映っているところが
洒落ているなぁと。
これは兵庫県立美術館の1階にあった記念撮影スポット。
キルケーの背後の鏡に自分を写して撮影することができるのが洒落てます!!
ハーバート・ジェイムズ・ドレイパー《オデュッセウスとセイレーン》
キルケーの島を離れたオデュッセウスらを待ち受ける次なる試練、
美しい歌声で船人たちを惑わせては遭難させる海の魔女セイレーンたちの棲む
島のそばを航行すること。オデュッセウスはキルケーに授けられた知恵で、
船を漕ぐ部下たちの耳に蜜蝋を詰めて歌声を聞こえなくしたが、自分は
歌声を聞いてみたいと、耳栓をせずに、マストに体を縛り付けた。
この絵では、セイレーンは海では人魚だが、船によじ登ってきた時には、
男を惑わすエロティックな美女となっています。耳栓をしていなかった
オデュッセウスは狂乱して、海へ飛び込もうと身をよじっている。
ドレイパーの絵というと、
愛知県美術館「黄金伝説」展で見た
http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2016-04-05
《金の羊毛》も美しくも怖かったなぁ。ギリシャ神話の
追手から逃げるために、弟アプシュルトスを海に投げ込ませて
時間稼ぎしようとしている王女メディアを描いています。
同じセイレーンでも、ギュスターヴ=アドルフ・モッサの
《飽食のセイレーン》は伝承通りの怪鳥として描いていますが、
翼が豪華な毛皮のマントのようにも見えます。
なんか、現代のマンガかアニメの絵ようだなぁと。
第2章で展示されていたモッサ《彼女》は、
巨乳に幼顔で、さらに萌え絵ってカンジ。
どちらもモッサ(1883-1971)の22歳(1905年)の作。
人が並んで鑑賞している中に、見たことのある絵があって、
あれ? これって‥‥ってキャプションを見ると、やっぱり、
岐阜県美術館所蔵のルドン《オルフェウスの死》でした!
黒いリトグラフが有名なルドンですが、これは夢の中のような
幻想的な色づかいで、描かれているのがオルフェウスの生首だって
知らなければ、どこが怖いのかわからないかもしれませんね。
この展覧会、岐阜県美術館の所蔵作品が結構入っていて、
いつも薄暗くてわりと狭い展示室で独り占め状態で見ている作品に、
たくさんの人が鑑賞しているのを見るのは、なんか誇らしい(?)ような
気分(すっかり岐阜県美術館は私の美術館みたいに思ってるwww)
第2章は「悪魔、地獄、怪物」
ヘンリー・フューズリ《夢魔》
この絵(のヴァージョン)は本とかで見たことがあるんですが、
作者の名前まで覚えておりませんでした。
第1章で展示されていたこの作者の
《ミズガルズの大蛇を殴ろうとするトール》は、
愛知県美術館の「ロイヤル・アカデミー」展に出てた絵ですね!
http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2015-04-16
オーブリー・ビアズリーによる『サロメ』のための挿絵も
展示されていました。いかにも世紀末のお耽美な世界!
ハイ、私も大好きでビアズリーの画集も持ってますが。
第3章が「異界と幻視」
ジョセフ・ライト《老人と死》は、
ガイコツが老人に向かって歩いてくるというパッと見ると恐ろしい絵だけど、
音声ガイドを聴くと、重い柴を運ぶのに疲れた老人が「もう死にたい」
というと、死神(ガイコツ)が現れて「何か用か」と言ったという
イソップ寓話の場面で、自分で死にたいと言った老人は
「この重い荷物を運んでほしくて」と答えたという笑い話。
岐阜県美術館所蔵のブレスダン《死の喜劇》や、
岐阜県美術館も所蔵しているけど、ここに展示されていたのは
国立西洋美術館蔵のムンク《マドンナ》とか、
(東京展では、群馬県立近代美術館所蔵のものが展示されるそう)
岐阜県美術館を代表するようなルドンの《蜘蛛》や、目玉――
『エドガー・ポーに』より《(1)眼は奇妙な気球のように無限に向かう》――とか、
マックス・クリンガー《手袋》は、岐阜県美術館も所蔵しているけど、
ここに展示されていたのは兵庫県立美術館所蔵のものでした。
(東京展では町田市立国際版画美術館のものが展示されるそう)
‥‥と、見ている絵も多かったので、人が多いこともあり、
わりと足早に進んでいきました。
第3章の最後に、チャールズ・シムズ(1873-1928)の絵が4点
展示されていました。
《ワインをたらふく飲む僕と君にこれらが何だというのだ》1895年
描かれている男はオーブリー・ビアズリーだと!!
退廃的な雰囲気の中に描かれている天使が幻想的。
《そして妖精たちは服を持って逃げた》1918-19頃 や
《小さな牧神》1905-06 に描かれる日常の中に現れる小さな妖精たち。
《クリオと子供たち》1913(1915加筆)になると、
一見穏やかで美しい絵なんですが‥‥
平和で美しい自然の中で、子どもたちが集まっています。
彼らの視線の先には、歴史を司る女神クリオが座っています。
女神が手にする巻物は血で染まっていますが、それは
1914年、第一次世界大戦によって長男を喪ったシムズが加筆したのだと。
シムズはその後徐々に精神を病んでゆき、
53歳で入水自殺したってことを知ると、
この絵がじわじわと怖く見えてきます。
第4章は「現実」
ゴヤの《戦争の惨禍》は、戦争という狂気の中での人間の蛮行を
描いていて、まさに酷い、怖い。正直見たくない残酷な絵で、
ゴヤの生前には発表されなかったそうですが、ゴヤが見た
戦争の実態、知っておかなければいけないと思います。
ここに展示されていた姫路市立美術館所蔵のゴヤの版画は、
岐阜県美術館「ゴヤの四大連作版画」展で見た中にありました。
http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2009-10-30
そして、男と女が、女性を押さえつけて今まさにナイフで刺そうとしている
という、怖い場面を描いた絵、タイトルも《殺人》
これを描いたのがあのセザンヌだってことに驚きます。
セザンヌは、20代後半~30代前半に、こういった暴力的でエロティックな
作品をかなり描いていたそう。
第5章が「崇高の風景」
愛知県美術館の「ロイヤル・アカデミー」展で見た
http://shizukozb.blog.so-net.ne.jp/2015-04-16
ターナー《ドルバダーン城》がありました。
音声ガイドで、ここに描かれたドルバダーン城は、
13世紀、兄弟での争いで勝利した弟が兄を20年以上幽閉した城で、
前景に描かれた人物は、兵士に引き立てられる兄オワインを幻影として
描いているのだろうと。
ロイヤル・アカデミー展で見た時は、荒涼とした谷に立つ廃墟の城の
風情ある風景‥‥くらいにしか見なくて
(その時は音声ガイドも借りてなかったし)
前景の人物には気が付かなかったのですが、そういう歴史を知って見ると、
絵がとてもドラマチックに見えてきます。
ギュスターヴ・モロー《ソドムの天使》が、幻想的な雰囲気で
とても素敵だなぁと見たんですが、音声ガイドを聞くと、
これは「硫黄と火」を雨のように降らせて滅ぼしたソドムの町を
見下ろす天使たちを描いているという、なかなか怖い絵です。
聖書における天使というのは、神の使いとして、ソドムを滅ぼせと
命じられれば、ジェノサイドも辞さない苛烈なものだと知って、
日本人が天使に抱く慈愛に満ちた優しい天使のイメージとちょっと違うなぁと。
第6章が「歴史」
ドラローシュ《レディ・ジェーン・グレイの処刑》をメインに、
その隣の、
フィリップ・ハモジェニーズ・コールドロン《何処へ?》1867年
16世紀風の衣装を身に着けた男女がつり橋を渡る姿。
不安そうな若い女性が、処刑の場所へ向かうようにも見えて、
これは特定の人物や事件を描いたものではないそうですが、
いろんな想像をかきたてられます。
フレデリック・グッドール《チャールズ1世の幸福だった日々》1853年頃
チャールズ1世と家族と廷臣たちが優雅に舟遊びをしています。
美しい王妃と愛らしい子どもたち。餌をもらう2羽の白鳥‥‥幸福そうな
穏やかな絵ですが、その後のチャールズ1世の運命を知ると
この完璧なまでの幸福そうな絵が―よく「怖いくらいの幸福」なんて
言いますけど―じわじわと怖く見えてきます。
今、絵は「何が描かれているか」より「いかに描かれているか」が
重要とされていて、画家にスポットが当たっているように思いますが、
写真も映画もなかった時代には、人々は一枚の絵から、いろんなことを
読み取っていたんだろうなぁって。
絵を自分の感性だけで見るのもいいけど、いろんな背景を知って見ると、
また違った絵の面白さがわかって、深いなぁって思いますね。
この展覧会、見たことがある絵も多かったけど、また違って見えましたし、
やっぱり《レディ・ジェーン・グレイの処刑》は圧巻です!!
ロンドンのナショナル・ギャラリーまでは見に行けないので、
奇跡の機会ともいえるこの展覧会で見ることができて本当に良かったです。
兵庫県立美術館の会期は9月18日(月・祝)までで、
すごく混んでいるそうですね。私が行った8月30日(水)に来場者15万人突破、
9月9日(土)には20万人を突破したとか。
その後、東京・上野の森美術館へ10月7日(土)~12月17日(日)に巡回とのこと。
ショップで図録2,500円はもちろんですが、
クリアーファイルを2種類買いました。各600円。
クリアーファイルは見開きでファイルすることができます。
1つ友人へのお土産で、どちらがいいか聞いたら、キルケーを
選んだので、私用にはレディ・ジェーンが残りました。
怖い絵展: http://www.kowaie.com/
兵庫県立美術館: http://www.artm.pref.hyogo.jp/
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