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愛知県美術館「安井仲治」展 [美術]

愛知県美術館「生誕120年 安井仲治」展を見てきました。
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この展覧会、愛知県美術館友の会に入ってなかったら
行かなかったと思う。

安井仲治(やすい なかじ)って名前も、
聞いたことさえなかったし、
チラシの写真も、なんか暗くて‥‥
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 日本の写真史において傑出した存在であった安井仲治(1903-1942)。10代でカメラと出会った安井は、20代半ばには関西の写真シーンで一目置かれる存在となりました。そして38歳の若さで病没するまで、旺盛な創作意欲をもって極めて多くの写真の技法、スタイルに取り組みました。
(チラシ裏面の文より)

この展覧会、10月6日(金)から始まったんですが、
10月12日(木)に、友の会の特別鑑賞会があったんですね。
たまたまその日、パートも休みだったので、
全く知らない作家だし、解説を聞くのもいいかもしれないと、
夜の部に参加しました。

(その鑑賞会へ行く前に見たのが、
名古屋市美術館「福田美蘭―美術って、なに?」
https://shizukozb.blog.ss-blog.jp/2023-10-16 )

特別鑑賞会では、展覧会を準備された
愛知県美術館学芸員の鵜尾佳奈(うお かな)さんが
解説してくださいました。

安井仲治を知っている方って質問に、
さすが友の会、ちらほらと手が挙がってました。
20年前に、生誕100年を記念した展覧会が
名古屋市美術館で開催されてたそう。
(その展覧会は、渋谷区立松濤美術館と名古屋市美術館を巡回)
今回の展覧会に出品された安井仲治のヴィンテージプリントは、
ほとんどが兵庫県立美術館に寄託されたものなので、
そちらで見た人もいるのではと。

でも私のように知らないって方も多かったです。

1903(明治36)年生まれ。
関西を中心に活躍したアマチュア写真家
写真家としては木村伊兵衛(1901-1974)と同年代
土門拳や森山大道が高く評価していたと。

「アマチュア」と言っても、当時は
職業として写真を撮っているのは、
写真館の経営者か、報道写真家くらいなので、
「アマチュア」という言葉は、
余暇に写真を撮っているというだけでなく、
芸術として写真を撮る、自立した表現者としての写真家
という意味でもあるとのこと。

特別鑑賞会でも、解説の後、閉館後の会場を
友の会貸切で展示を見たんですが、限られた時間で、
多くの写真があるので、じっくり見られなかったし、
コレクション展を見たかったので、
11月5日(日)にもう一度見に行きました。

友の会の会員証にスタンプを押してもらい、
チケットをもらいます。
一部を除き撮影可!
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置いてあった鑑賞ガイド


まず、安井仲治の紹介と、愛用のカメラの展示
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左が、ローライフレックス
右が、ライカⅢB
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最初に展示されているのが、
《分離派の建築と其周囲》1922年
特別鑑賞会で画像を見せられた時、
なんかボケた写真? みたいに思ったけど、
当時、芸術写真として絵画風に仕上げた
「ピクトリアリズム」写真が全盛だったそう。

《クレインノヒビキ》1923年 個人蔵(兵庫県立美術館に寄託)
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プロムオイルという技法を使って、
油絵のような効果を出しています。

《眺める人々》1925年/2023年
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猿回しを眺める人々だけを切り取った作品

制作年に「1925年/2023年」と記されているのは、
写真が初めに発表された年/モダンプリントされた年
写真家自身が撮影後間もなくプリントした写真のことを「ヴィンテージプリント」、その写真が撮影されて時間が経ってから、もしくは写真家の死後に第三者の手によってプリントされた写真を「モダンプリント」と呼びます。

安井の写真の一部は、彼の死の3年後1945年の大阪大空襲により焼失してしまっているため、過去に何回かモダンプリントが制作されています。
(鑑賞ガイドより)

この展覧会では、ヴィンテージプリントが約140点、モダンプリントが約60点展示されており、うち、この展覧会のためにモダンプリントされたものが23点。
モダンプリントの制作には、作家の作品制作過程の研究が重ねられていると。


ネガコンタクトプリント《或る船員の像》《(童女スケッチ)》
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《或る船員の像》や《(童女スケッチ)》は、
ネガを大胆にトリミングして作品にしているってのがわかって
興味深かった。


《(横たわる女)》1930年頃 安井冨子氏蔵
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白い女性のヌードが美しい


《平野町》1929年/2004年 渋谷区立松濤美術館
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当時の都市風景が切り取られていて興味深い


《(牛 Ver.)》1929年頃 個人蔵(兵庫県立美術館に寄託)
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画面いっぱいの黒い牛が迫力


《斧と鎌》1931年 個人蔵(兵庫県立美術館に寄託)
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斧と鎌が作り出す影が面白い!


安井仲治旧蔵の書籍
ヴェルナー・グラフ
「映画と写真」展関連書籍
『新しい写真家がやってくる!』1929年
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ドイツで行われた「映画と写真」展(1929年)の写真部門が、「独逸国際移動写真展」(1931年)として日本に巡回し、多くの写真家に影響を与えた。本書に収録されたマン・レイの作品を安井は後に雑誌で紹介している。(キャプションの文)
左ページがマン・レイの作品(写真?)


《海浜》1936年/2004年 渋谷区立松濤美術館
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この写真、今回の展覧会にあたっての調査で、
撮影地は愛知県知多半島にある野間埼灯台だと特定したそう。
なんかドラマチックな迫力がある写真
キャプションの解説でも、
話題を呼び、模倣者が続出した。」と


《夕》1938年/2004年 名古屋市美術館
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なんかこの写真見て、バックの単純な建造物といい、
素朴な姉妹の様子といい、寂寥感が迫ってくるように
感じたんですが、説明を読むと、
「写友T君が応召しました。戦地へ出発の前の最後の面会日を知らしてもらったので出かけました。其帰途こんな風景へ通りかゝりました。建物と子供の関係等に心惹かれて撮りましたが、少し寂しい写真が出来ました。」(『カメラクラブ』1939年1月号)

《モニュメント》1938年/2004年 渋谷区立松濤美術館
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このフォルム、面白い!
安井が「半静物」と呼んでいたシリーズで、
北野中学校撮影会で理科室の標本を組み合わせて
撮影した写真。


《海辺》1938年 個人蔵(兵庫県立美術館に寄託)
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撮影会で撮られた写真


《白衣勇士(着座)》1940年/2004年 名古屋市美術館
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陸軍病院で撮影した写真。1940年、戦争の影が感じられます。


《流氓ユダヤ 母》1941年 個人蔵(兵庫県立美術館に寄託)
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女性の強い目線がとても印象的な写真

「流氓(るぼう)ユダヤ」シリーズは、
1941(昭和16)年3月、安井は丹平写真倶楽部の有志と共に、ナチスによる迫害を逃れ神戸にたどり着いたポーランド系ユダヤ人を撮影した。
この撮影メンバーに手塚治虫の父が入っていたって
特別鑑賞会で聞いて興味深かった。

《(サーカスの女)》1940年 個人蔵(兵庫県立美術館に寄託)
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最後のコーナーに展示してあったこの写真
《熊谷守一氏像》1939-42年 個人蔵(兵庫県立美術館に寄託)
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へー、熊谷守一の写真!
守一は1980年生まれだから、60歳くらい? って

1942年に38歳の若さで病没。


‥‥正直、安井仲治の写真がそんなにすごいのか、私では
よくわからないところもあるんだけど、人物から風景から、
シュルレアリスム風の半静物など、38歳の若さで亡くなったってのが
信じられない程の多彩な写真があって、いいなって見た写真も多い。
モノクロ写真が並ぶ展示室は端正な雰囲気で良かったし。

そして、私個人的に感慨深かったのが、もらった鑑賞ガイド、
安井仲治のプリント技法についての解説や、
ヴィンテージプリントとモダンプリントについて、
とてもわかりやすく説明されていて良かったけど、
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フィルムカメラの現像と銀塩写真のプリント方法についても
説明されていて、そうか、スマホやデジカメで
簡単に美しいカラー写真が撮れる現代では、
ネガフィルムは白黒が反転しているなんてことも
わからない人も出てきてるのかなーなんて。
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私、大学でモノクロフィルムの現像や
引き伸ばしは習ったんですよ。
実は引き伸ばし機、持ってます!
(さすがにもうずっと使ってないですが、
押し入れから引っ張り出してみました)
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LUCKY ENLARGER 60M

フィルムの現像は光は厳禁なので、黒い袋の中に手を入れて
行ないますが、印画紙への引き延ばし作業は、それほど
厳密な暗室でなくてもできたので(あくまで私のレベルでは)
夜、窓に黒い幕を張ってやってました。
印画紙を現像液に浸して画像が浮き上がってくるのが
楽しかった。どれくらいで現像液から引き上げて、
(足りないと白っぽいし、浸しすぎると黒くなってしまう)
停止液、定着液に浸すか調整するのも面白かったです。

そして、手塚治虫のお父さんについて、
Wikiで安井仲治を調べてたら、ちゃんと
手塚治虫の父・手塚 粲(てづか ゆたか 1900-1986)
のページもあって、興味深く読みました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%8B%E5%A1%9A%E7%B2%B2

ちょっと前にLINEマンガで、お勧めで流れてきた
堀田あきお&かよ「手塚治虫アシスタントの食卓」が
とても面白かった(課金して最後まで読んでしまった)んだけど、
忙しい手塚治虫に代わって訪ねてきたファンの相手をしたりと、
とてもいいお父さんだなって思って読んでたけど、
アマチュア写真家として、
安井仲治と「流氓ユダヤ」の写真を撮るほどの腕前だったとは!

話がそれましたが、愛知県美術館のコレクション展については
次の記事で。



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