東京国立近代美術館「美術館の春まつり」コレクション展 [美術]
3月30日(木)、東京国立近代美術館で、
「重要文化財の秘密」展を見たことは前記事に
https://shizukozb.blog.ss-blog.jp/2023-04-19
名品揃いの展覧会ではありましたが、
展示期間が限られている作品もあり、
ちょっと出品数が少なかったなって気もしたんです。
「重要文化財の秘密」のチケットで所蔵作品展も見られるって
ことなので、1階の所蔵品展の入口から、エレベーターで4階へ
東京国立近代美術館ウェブサイト
所蔵作品展 MOMATコレクション(2023.3.17—5.14) によれば、
https://www.momat.go.jp/exhibitions/r4-3
4階の1~4室では、1階で開催中の「重要文化財の秘密」展にからめ、重要文化財ではない作品によって重要文化財を照らし出す企画
1室 ハイライト
まず、東山魁夷《道》1950年 が展示されていて驚きました。
まだ戦後の作品は重要文化財に指定されていないけど、
指定されるならこの作品かなーとか。
(唐招提寺の障壁画はもちろんだろうけど)
国民的画家と言われた東山魁夷の初期の代表作ですね。
道だけを単純な構図で描いた絵、
戦後の日本の再出発への希望も込められているようです。
太田聴雨《星をみる女性》1936年
天体望遠鏡を見る女性たちが気品があって素敵です。
解説を読んで気が付いたけど、女性たちの着物の柄が
春蘭、牡丹、小菊、楓と、季節がまちまちである。
彼女たちは巡りゆく季節を表していて、この絵は
「天体の運行」というようなものを描いているのではないかと。
小倉遊亀《O夫人坐像》1953年
日常的に着物を着て正座をしている女性のきりっとした姿。
名品揃いの1室は、男女の作家を同数にしてみたとのこと。
古賀春江《海》1929年
なんとも不思議な、一度見たら忘れられないようなインパクトのある絵。
解説で気が付きましたが、
鳥と飛行船(空飛ぶもの)。魚と潜水艦(泳ぐもの)。右端の女性と左端の工場(すっくと立つもの)。この作品には、いくつもの「自然のもの」と「人口のもの」のそっくりペアが見つかります。ちなみに女性は名女優、グロリア・スワンソン(1899-1983)の絵葉書をもとに描かれています。
三岸好太郎《雲の上を飛ぶ蝶》1934年 の隣には、
三岸節子《静物(金魚)》1950年 がありました。
桂ゆき(ユキ子)《ゴンベとカラス》1966年
何これ!? マンガか絵本みたいで楽しい!
「権兵衛が種まきゃ、カラスがほぜくる♪」
権兵衛さんより大きいカラスがユーモラス!
えっ?! これセザンヌなの?!! すごい、素敵!
ポール・セザンヌ《大きな花束》c.1892-95年
「眺めのよい部屋」って表示に行ってみると、
ホントだ! 皇居のお堀が見下ろせる。
2室 重文作家の秘密
「重要文化財の秘密」展にちなみ、
重要文化財に指定された作品を生んだ作家の
他の作品が紹介されています。
「重要文化財の秘密」展で石膏原型が展示されていた
新海竹太郎《ゆあみ》のブロンズ像
下村観山《木の間の秋》1907年
(ガラスの映り込みで上手く撮影できなかったので、
購入したポストカードをスキャンしました)
この作品の方が、重文に指定された《弱法師》より
画集への掲載数が多いのだとか。
3室 からだをひねれば
荻原守衛《女》1910年
これが、1910年の第4回文展に出品されて好評を博したまさにその作品。
しかし、重要文化財には本作の石膏原型が指定されています。
4室 《熱国之巻》の半年前
「重要文化財の秘密」展に出品されている今村紫紅の《熱国之巻》
紫紅は半年前にインドを旅行します。旅程は、
「船は2月26日に神戸港を出発し、門司、香港、シンガポール、ペナン(現・マレーシアのペナン州)、ラングーン(現・ミャンマー連邦共和国のヤンゴン)に寄港し、インドのコルカタに到着。コルカタから先はインド内陸部のガヤー、ブッダガヤにまで足を伸ばします。帰途は中国江南地方を漫遊して、帰国は5月末頃でした。」
東京国立近代美術館のウェブサイトより:
https://www.momat.go.jp/exhibitions/r4-3
今村紫紅 《「印度旅行スケッチ帳」より 彼南(ペナン)郊外》1914年
今村紫紅《「印度旅行スケッチ帳」より 蘭貢(ラングーン)の町》1914年
今村紫紅《「印度旅行スケッチ帳」より 迦耶(ガヤー)ノ町》1914年
5室 新収蔵&特別公開|パウル・クレー《黄色の中の思考》
2021年度に新収蔵となった
パウル・クレー《黄色の中の思考》1937年
新収蔵のお披露目として、東京国立近代美術館が所蔵する
クレー作品全15点と、クレーに関わりの深い作品が展示されていました。
パウル・クレー《山への衝動》1939年
パウル・クレー《花のテラス》1937年
パウル・クレー《破壊された村》1920年
パウル・クレー《ホフマン風の物語》1921年
パウル・クレー《花ひらく木をめぐる抽象》1925年
クレーの作品、いいなぁ!
クレーとバウハウスで同僚だった
ワシリー・カンディンスキー《全体》1940年
いろんなタイプの絵を描いているカンディンスキーで、
私はふーん、なんて思う絵も多いんですけど、
この絵はとても気に入りました。
なんかチマチマ(笑)とかわいくて、モダンで楽しい!
3階へと階段を降りていくと、
その向こうの吹き抜けになった空間が気になる
ソル・ルウィット《ウォール・ドローイング#769 黒い壁を覆う幅36インチ(90cm)のグリッド。角や辺から発する円弧、直線、非直線から二種類を体系的に使った組み合わせ全部。》1994年
黒い壁に白いラインで円弧や直線が描かれています。
90cm×90cmの矩形の中に16種類の円弧、直線、非直線が
2つずつ組み合わされて構成されています。
コンセプチュアル・アーティストであるソル・ルウィット
この作品は、彼が構想を立て設計をしましたが、
実際に描いたのは、彼がドラフトマンと呼ぶ制作者。
愛知県美術館「ミニマル/コンセプチュアル」展で
https://shizukozb.blog.ss-blog.jp/2022-02-11
コンセプチュアル・アートでは、コンセプトが重要で、
自分の手で制作したかどうかは重要ではないと知りました。
6室 戦争をいかに描くか
鶴田吾郎《神兵パレンバンに降下す》1942年
なんかポップというか、戦争というより、
遊園地のアトラクションのような陽気な雰囲気って見たけど、
1942年というと昭和17年、まだ日本が戦争初期の
大勝に浮かれていた頃ですか。
当時も「あまりに楽天的」と評されたよう。
7室 プレイバック「抽象と幻想」展(1953–1954)
1952年に京橋で開館した東京国立近代美術館
1953年12月1日~1954年1月20日に開催された
「抽象と幻想 非写実絵画をどう理解するか」展
「名品を並べるという従来型の展示とは異なり、同時代の作家を、特定のテーマの下で取り上げる新しい試み」で、「批評家の植村鷹千代と瀧口修造を協力委員に迎え、「抽象」と「シュルレアリスム(幻想)」というモダンアートの二大潮流をめぐって構成された展覧会」だったそう。
持ち帰ることができた資料
B5サイズのパンフレットは、展覧会当時のものを再現したものかな?
(今は印刷物A4が主流ですが、以前はB5でしたよね)
今回も展示されていた
吉沢岩美《プルトの娘》1951年
インパクトありましたね!
8室 マスターズ
油彩画と彫刻を中心に、当館で個展を開催した国内作家の作品の中から、戦後から80年代までの所蔵品を紹介します。
1998年に個展を開催した
土谷武《いきもの I 》1979年
私この方知らなかったなー。え?愛知県美術館にも作品がある?
やっぱりインパクトあったのはこの作品!
草間彌生《天上よりの啓示》1989年
9室 奈良原一高「ヨーロッパ・静止した時間」
このあたり、ちょっと疲れてきて、写真かーって、
サラッと通り過ぎてしまいました(^^;
私、奈良原一高の写真集「ジャパネスク」持ってたなー
2020年1月19日に88歳で亡くなられたんですね。
10室 春の屏風まつり
「美術館の春まつり」に合わせて、
桜や花にちなんだ屏風が並んでいて、とても良かった!!
菊池芳文《小雨ふる吉野》1914年
「桜の名所である吉野の、およそ100年前の光景です。」
「タイトルには「小雨」とありますが、かなりの雨が満開の桜を濡らしています。作者の菊池芳文は桜の名手とうたわれた京都四条派の画家で、この作品でもさまざまに工夫をこらしています」
屏風を生活空間で使っている人は、近代以降は少数派でしょう。なのに画家たちが好んで屏風に描くのは、(1)画面が大きいから、(2)収納が便利だから、(3)屏風のジグザグの折れに独特の画面効果が望めるから、だと言えます。とくに(3)が面白くて、屏風の屈曲の効果によって奥行きや動きが生まれるのを、うまい画家はちゃんと計算に入れて描きました。そう、屏風はただの平面ではないのです。
この絵、とても気に入ったので、ショップでポストカード買いました。
ポストカードや図録には、屏風を平面にして載せてますね。
跡見玉枝《桜花図屏風》1934年
「作者の跡見玉枝は、跡見学園を創設した跡見花蹊の従妹で、桜の絵で有名でした。」
船田玉樹《花の夕》1938年
鮮烈なマゼンタ色がすごくモダン!
ポストカード
鈴木主子《和春》1936年
「梨の花が盛りです。桜が散ったあとは、こんなふうに白と黄色と緑の春が訪れます。作者は1927(昭和2)年に女子美術学校を卒業して1929年に再興院展に初入選した日本画家。生涯もっぱら植物を描きました。」
加山又造《春秋波濤》1966年
「波の間に浮かぶのは、桜咲く山と、紅葉の山、もう一つは黄色く塗られた松の山です。加山は、室町時代に描かれたやまと絵の作例を見て、一つの画面にさまざまな季節が同居するこの作品を着想したと語っています。」
ズラリと並んだ額。花を描いたスケッチかと見たら「木版、印刷」
杉浦非水なんだ!
杉浦非水《「非水百花譜」より やへざくら(八重桜)》1920-22
杉浦非水《「非水百花譜」より そめゐよしの(染井吉野)》1920-22
展示壁の角をはさんで展示した効果をお楽しみいただきたい、との
児玉靖枝《ambient light ― sakura》2002年
下方に展示してあるパネルも作品なんですね。
2階へ降りて、11室・12室
2000年以降に収集した作品
冨井大裕《ゴールドフィンガー》2007年
なんかキラキラしてきれい。何が描かれているのかな? と
近づくと、これらは全て画鋲!
「画鋲27225本を用いて、3種類の形での展開が可能です。また、製作は指示書に従って為され、必ずしも作家の手を必要としません。」
《ゴールドフィンガー》に設営の様子がタイムプラスで記録されています
https://www.momat.go.jp/magazine/166
あ、青木野枝さんの彫刻
青木野枝《雲谷 2018-I》2018年
こちらは青木野枝の版画《玉曇 6》と《玉曇 7》2011年
木下晋《仰臥》2020年
鉛筆でものすごい大きさに克明に描かれた顔。
「本作のモデルは、パーキンソン病を患った妻の君子。日に日に身体が硬直し、不自由になっていく君子の姿を、眉間に刻まれた皺や髪のわずかな乱れまで、22種類の鉛筆を使い分けて精緻に描き出しました。」
千葉正也《平和な村》2019-20年
これは作りかけの人形?とかが並んでいる?
背景は採掘現場?
瓶やプラスチック?カップやら、じょうごやら、
雑多なものが並んでいて、なんか楽しそう。
シュシ・スライマン《国(Negara)》2012-13年
「赤と白のストライプは、作家が帰属するところのマレーシアの国旗に用いられています。その上に描かれているいくつもの顔は、仮想のマレーシアの祖先の顔、マレーシアの政治家の顔、彼女自身の父親の顔だと言います。この作品では、マレーシアという国家の複雑さと彼女自身の出自の複雑さとが重ね合わせられているのです(後略)」
ギャラリー4では、コレクションによる小企画
「修復の秘密」展が開催されていました。
https://www.momat.go.jp/exhibitions/r4-3-g4
藤田嗣治《五人の裸婦》1923年
美術館に収蔵される前に行われた修復によって、
広範囲に補彩が施されていたり、塗られたワニスが黄化して
オリジナルの画肌が失われていたので、今回の修復で、
補彩を取り除き、本来の表現に近づける処置をしたとのこと。
詳しい報告書が東京国立近代美術館リポジトリで
公開されていて、読むことができます。
藤田嗣治《自画像》1929年
この作品は、制作後一度もワニスが塗布されていないので、
藤田独特の、タルクを混ぜた油絵具の発色や質感がよくわかる
制作当時の絵肌を残す貴重な作品。
なので、修復は画面に影響が少ないドライクリーニングで
経年の汚れを除去するにとどめたそう。
ルーチョ・フォンターナ《空間概念 期待》1961年
「キャンバスにナイフで切り込みを入れるフォンターナの代表的シリーズ『空間概念』です。一見すると迷いなくナイフをスパッと入れる瞬間的な行為が想像されます。けれど裏面をよく観察してみると、黒い布をあてて切込みの形を丁寧に整え、固定していたことがわかりました。」
フランシス・ベーコン《スフィンクス−ミュリエル・ベルチャーの肖像》1979年
「目止め、地塗りのほどこされた既成キャンバスの裏面に描いています。繊維のダマや、ザックリとした麻の質感を好んだのでしょう」
靉光《自画像》1944年
一宮市三岸節子記念美術館「自画像展」で
https://shizukozb.blog.ss-blog.jp/2021-03-19
チラシのメインビジュアルとして使われていて、
とても印象に残った絵!
「靉光は招集を受ける直前に、この胸をはり、顎を少し上げて遠くを見つめる自画像を描きます。この作品を新人画会の第三回展に出品するように友人に託して靉光は戦地に赴きますが、終戦間もなく上海で還らぬ人となりました。」
「修復できる/できないとは別に、する/しないという判断も存在します。本作は経年で汚れがたまり、その下のワニスは変色していました。専用の溶剤を使ったテストで、変色したワニスは除去できるとわかりました。(中略)修復によって画面がかなり明るくなる、たとえばシャツが真っ白になるような見え方の変化はこれまで作られてきた作品のイメージにどんな影響を与えるのか(中略)今回はワニスの除去を行わず、経年の汚れのクリーニングのみに留めることにしました。」
津田青楓《犠牲者》1933年
2020年練馬区立美術館「津田青楓」展 で見て、
https://shizukozb.blog.ss-blog.jp/2020-03-23
とてもインパクトがあった絵。
この絵は、特高が来るっていうとキャンバスを巻いて箱に入れ、
別の絵を描いているふりをするということを何遍も繰り返しながら
描いた絵。なので「特に絵具の厚いところに亀裂があって、隠しきれないんです。だけど、亀裂もまた、時代の証人だと私は思うんです。」
『現代の眼』619号(2016年8-9月)掲載の「修復家と作品の関わり|山領まり氏に聞く」での発言を再構成 とのこと
はー、なんか‥‥国立近代美術館のコレクション展、すごかった。
質も量もすごいし、それぞれ詳しい解説がつけられていて、
見ごたえあったけど、ちょっと疲れたなー
なんて、2階出口から出ようとしたら、
え!? 何? この作品!!
アントニー・ゴームリー《反映/思索》2001年
ガラスをはさんでそっくりな形の人体像が向き合っている!
ガラスに映っているようにも見えて面白~い!
この彫刻の解説の隣にあった解説で気が付いたけど、
建物の外の青い建造物のようなものは、
イサム・ノグチ《門》1969年
1969(昭和44)年に東京国立近代美術館は、京橋から
ここ竹橋に移転してきました。《門》はこの
新築移転にあわせる形で制作されたそう。
「ノグチの生前、《門》はその指示により塗り替えのたび色を変更し、結果として「赤」「赤+黒」「青」「黄+黒」の4つのヴァージョンができました。ノグチが没した後は、この4ヴァージョンを守り、適宜塗り替えを行っています。」
全体の形を見ることができなくて残念だな‥‥
前庭にある彫刻は、
多田美波《Chiaroscuro》1979年
2022年12月に洗浄を行ったとのことで、キラキラと光ってきれい。
洗浄の様子を動画で見ることができます。
https://www.momat.go.jp/magazine/153
結局この日、東京国立近代美術館に開館の9:30に入って、
14:20までいましたー。
残念だったのが、レストランが貸切で入れなかったこと。
「美術館の春まつり」でテイクアウトの出店もあったけど、
フード類は全て売り切れていました(T.T)
東京国立近代美術館: https://www.momat.go.jp/
「所蔵作品展 MOMATコレクション(2023.3.17—5.14)」:
https://www.momat.go.jp/exhibitions/r4-3
「修復の秘密」展: https://www.momat.go.jp/exhibitions/r4-3-g4
「美術館の春まつり」: https://www.momat.go.jp/extra/2023/springfest/
東京国立近代美術館、コレクション展の作品解説が
「Catalog Pocket」アプリで読めるんです!
ブログ書くのにずいぶん参考にさせてもらいました。
「重要文化財の秘密」展を見たことは前記事に
https://shizukozb.blog.ss-blog.jp/2023-04-19
名品揃いの展覧会ではありましたが、
展示期間が限られている作品もあり、
ちょっと出品数が少なかったなって気もしたんです。
「重要文化財の秘密」のチケットで所蔵作品展も見られるって
ことなので、1階の所蔵品展の入口から、エレベーターで4階へ
東京国立近代美術館ウェブサイト
所蔵作品展 MOMATコレクション(2023.3.17—5.14) によれば、
https://www.momat.go.jp/exhibitions/r4-3
4階の1~4室では、1階で開催中の「重要文化財の秘密」展にからめ、重要文化財ではない作品によって重要文化財を照らし出す企画
1室 ハイライト
まず、東山魁夷《道》1950年 が展示されていて驚きました。
まだ戦後の作品は重要文化財に指定されていないけど、
指定されるならこの作品かなーとか。
(唐招提寺の障壁画はもちろんだろうけど)
国民的画家と言われた東山魁夷の初期の代表作ですね。
道だけを単純な構図で描いた絵、
戦後の日本の再出発への希望も込められているようです。
太田聴雨《星をみる女性》1936年
天体望遠鏡を見る女性たちが気品があって素敵です。
解説を読んで気が付いたけど、女性たちの着物の柄が
春蘭、牡丹、小菊、楓と、季節がまちまちである。
彼女たちは巡りゆく季節を表していて、この絵は
「天体の運行」というようなものを描いているのではないかと。
小倉遊亀《O夫人坐像》1953年
日常的に着物を着て正座をしている女性のきりっとした姿。
名品揃いの1室は、男女の作家を同数にしてみたとのこと。
古賀春江《海》1929年
なんとも不思議な、一度見たら忘れられないようなインパクトのある絵。
解説で気が付きましたが、
鳥と飛行船(空飛ぶもの)。魚と潜水艦(泳ぐもの)。右端の女性と左端の工場(すっくと立つもの)。この作品には、いくつもの「自然のもの」と「人口のもの」のそっくりペアが見つかります。ちなみに女性は名女優、グロリア・スワンソン(1899-1983)の絵葉書をもとに描かれています。
三岸好太郎《雲の上を飛ぶ蝶》1934年 の隣には、
三岸節子《静物(金魚)》1950年 がありました。
桂ゆき(ユキ子)《ゴンベとカラス》1966年
何これ!? マンガか絵本みたいで楽しい!
「権兵衛が種まきゃ、カラスがほぜくる♪」
権兵衛さんより大きいカラスがユーモラス!
えっ?! これセザンヌなの?!! すごい、素敵!
ポール・セザンヌ《大きな花束》c.1892-95年
「眺めのよい部屋」って表示に行ってみると、
ホントだ! 皇居のお堀が見下ろせる。
2室 重文作家の秘密
「重要文化財の秘密」展にちなみ、
重要文化財に指定された作品を生んだ作家の
他の作品が紹介されています。
「重要文化財の秘密」展で石膏原型が展示されていた
新海竹太郎《ゆあみ》のブロンズ像
下村観山《木の間の秋》1907年
(ガラスの映り込みで上手く撮影できなかったので、
購入したポストカードをスキャンしました)
この作品の方が、重文に指定された《弱法師》より
画集への掲載数が多いのだとか。
3室 からだをひねれば
荻原守衛《女》1910年
これが、1910年の第4回文展に出品されて好評を博したまさにその作品。
しかし、重要文化財には本作の石膏原型が指定されています。
4室 《熱国之巻》の半年前
「重要文化財の秘密」展に出品されている今村紫紅の《熱国之巻》
紫紅は半年前にインドを旅行します。旅程は、
「船は2月26日に神戸港を出発し、門司、香港、シンガポール、ペナン(現・マレーシアのペナン州)、ラングーン(現・ミャンマー連邦共和国のヤンゴン)に寄港し、インドのコルカタに到着。コルカタから先はインド内陸部のガヤー、ブッダガヤにまで足を伸ばします。帰途は中国江南地方を漫遊して、帰国は5月末頃でした。」
東京国立近代美術館のウェブサイトより:
https://www.momat.go.jp/exhibitions/r4-3
今村紫紅 《「印度旅行スケッチ帳」より 彼南(ペナン)郊外》1914年
今村紫紅《「印度旅行スケッチ帳」より 蘭貢(ラングーン)の町》1914年
今村紫紅《「印度旅行スケッチ帳」より 迦耶(ガヤー)ノ町》1914年
5室 新収蔵&特別公開|パウル・クレー《黄色の中の思考》
2021年度に新収蔵となった
パウル・クレー《黄色の中の思考》1937年
新収蔵のお披露目として、東京国立近代美術館が所蔵する
クレー作品全15点と、クレーに関わりの深い作品が展示されていました。
パウル・クレー《山への衝動》1939年
パウル・クレー《花のテラス》1937年
パウル・クレー《破壊された村》1920年
パウル・クレー《ホフマン風の物語》1921年
パウル・クレー《花ひらく木をめぐる抽象》1925年
クレーの作品、いいなぁ!
クレーとバウハウスで同僚だった
ワシリー・カンディンスキー《全体》1940年
いろんなタイプの絵を描いているカンディンスキーで、
私はふーん、なんて思う絵も多いんですけど、
この絵はとても気に入りました。
なんかチマチマ(笑)とかわいくて、モダンで楽しい!
3階へと階段を降りていくと、
その向こうの吹き抜けになった空間が気になる
ソル・ルウィット《ウォール・ドローイング#769 黒い壁を覆う幅36インチ(90cm)のグリッド。角や辺から発する円弧、直線、非直線から二種類を体系的に使った組み合わせ全部。》1994年
黒い壁に白いラインで円弧や直線が描かれています。
90cm×90cmの矩形の中に16種類の円弧、直線、非直線が
2つずつ組み合わされて構成されています。
コンセプチュアル・アーティストであるソル・ルウィット
この作品は、彼が構想を立て設計をしましたが、
実際に描いたのは、彼がドラフトマンと呼ぶ制作者。
愛知県美術館「ミニマル/コンセプチュアル」展で
https://shizukozb.blog.ss-blog.jp/2022-02-11
コンセプチュアル・アートでは、コンセプトが重要で、
自分の手で制作したかどうかは重要ではないと知りました。
6室 戦争をいかに描くか
鶴田吾郎《神兵パレンバンに降下す》1942年
なんかポップというか、戦争というより、
遊園地のアトラクションのような陽気な雰囲気って見たけど、
1942年というと昭和17年、まだ日本が戦争初期の
大勝に浮かれていた頃ですか。
当時も「あまりに楽天的」と評されたよう。
7室 プレイバック「抽象と幻想」展(1953–1954)
1952年に京橋で開館した東京国立近代美術館
1953年12月1日~1954年1月20日に開催された
「抽象と幻想 非写実絵画をどう理解するか」展
「名品を並べるという従来型の展示とは異なり、同時代の作家を、特定のテーマの下で取り上げる新しい試み」で、「批評家の植村鷹千代と瀧口修造を協力委員に迎え、「抽象」と「シュルレアリスム(幻想)」というモダンアートの二大潮流をめぐって構成された展覧会」だったそう。
持ち帰ることができた資料
B5サイズのパンフレットは、展覧会当時のものを再現したものかな?
(今は印刷物A4が主流ですが、以前はB5でしたよね)
今回も展示されていた
吉沢岩美《プルトの娘》1951年
インパクトありましたね!
8室 マスターズ
油彩画と彫刻を中心に、当館で個展を開催した国内作家の作品の中から、戦後から80年代までの所蔵品を紹介します。
1998年に個展を開催した
土谷武《いきもの I 》1979年
私この方知らなかったなー。え?愛知県美術館にも作品がある?
やっぱりインパクトあったのはこの作品!
草間彌生《天上よりの啓示》1989年
9室 奈良原一高「ヨーロッパ・静止した時間」
このあたり、ちょっと疲れてきて、写真かーって、
サラッと通り過ぎてしまいました(^^;
私、奈良原一高の写真集「ジャパネスク」持ってたなー
2020年1月19日に88歳で亡くなられたんですね。
10室 春の屏風まつり
「美術館の春まつり」に合わせて、
桜や花にちなんだ屏風が並んでいて、とても良かった!!
菊池芳文《小雨ふる吉野》1914年
「桜の名所である吉野の、およそ100年前の光景です。」
「タイトルには「小雨」とありますが、かなりの雨が満開の桜を濡らしています。作者の菊池芳文は桜の名手とうたわれた京都四条派の画家で、この作品でもさまざまに工夫をこらしています」
屏風を生活空間で使っている人は、近代以降は少数派でしょう。なのに画家たちが好んで屏風に描くのは、(1)画面が大きいから、(2)収納が便利だから、(3)屏風のジグザグの折れに独特の画面効果が望めるから、だと言えます。とくに(3)が面白くて、屏風の屈曲の効果によって奥行きや動きが生まれるのを、うまい画家はちゃんと計算に入れて描きました。そう、屏風はただの平面ではないのです。
この絵、とても気に入ったので、ショップでポストカード買いました。
ポストカードや図録には、屏風を平面にして載せてますね。
跡見玉枝《桜花図屏風》1934年
「作者の跡見玉枝は、跡見学園を創設した跡見花蹊の従妹で、桜の絵で有名でした。」
船田玉樹《花の夕》1938年
鮮烈なマゼンタ色がすごくモダン!
ポストカード
鈴木主子《和春》1936年
「梨の花が盛りです。桜が散ったあとは、こんなふうに白と黄色と緑の春が訪れます。作者は1927(昭和2)年に女子美術学校を卒業して1929年に再興院展に初入選した日本画家。生涯もっぱら植物を描きました。」
加山又造《春秋波濤》1966年
「波の間に浮かぶのは、桜咲く山と、紅葉の山、もう一つは黄色く塗られた松の山です。加山は、室町時代に描かれたやまと絵の作例を見て、一つの画面にさまざまな季節が同居するこの作品を着想したと語っています。」
ズラリと並んだ額。花を描いたスケッチかと見たら「木版、印刷」
杉浦非水なんだ!
杉浦非水《「非水百花譜」より やへざくら(八重桜)》1920-22
杉浦非水《「非水百花譜」より そめゐよしの(染井吉野)》1920-22
展示壁の角をはさんで展示した効果をお楽しみいただきたい、との
児玉靖枝《ambient light ― sakura》2002年
下方に展示してあるパネルも作品なんですね。
2階へ降りて、11室・12室
2000年以降に収集した作品
冨井大裕《ゴールドフィンガー》2007年
なんかキラキラしてきれい。何が描かれているのかな? と
近づくと、これらは全て画鋲!
「画鋲27225本を用いて、3種類の形での展開が可能です。また、製作は指示書に従って為され、必ずしも作家の手を必要としません。」
《ゴールドフィンガー》に設営の様子がタイムプラスで記録されています
https://www.momat.go.jp/magazine/166
あ、青木野枝さんの彫刻
青木野枝《雲谷 2018-I》2018年
こちらは青木野枝の版画《玉曇 6》と《玉曇 7》2011年
木下晋《仰臥》2020年
鉛筆でものすごい大きさに克明に描かれた顔。
「本作のモデルは、パーキンソン病を患った妻の君子。日に日に身体が硬直し、不自由になっていく君子の姿を、眉間に刻まれた皺や髪のわずかな乱れまで、22種類の鉛筆を使い分けて精緻に描き出しました。」
千葉正也《平和な村》2019-20年
これは作りかけの人形?とかが並んでいる?
背景は採掘現場?
瓶やプラスチック?カップやら、じょうごやら、
雑多なものが並んでいて、なんか楽しそう。
シュシ・スライマン《国(Negara)》2012-13年
「赤と白のストライプは、作家が帰属するところのマレーシアの国旗に用いられています。その上に描かれているいくつもの顔は、仮想のマレーシアの祖先の顔、マレーシアの政治家の顔、彼女自身の父親の顔だと言います。この作品では、マレーシアという国家の複雑さと彼女自身の出自の複雑さとが重ね合わせられているのです(後略)」
ギャラリー4では、コレクションによる小企画
「修復の秘密」展が開催されていました。
https://www.momat.go.jp/exhibitions/r4-3-g4
藤田嗣治《五人の裸婦》1923年
美術館に収蔵される前に行われた修復によって、
広範囲に補彩が施されていたり、塗られたワニスが黄化して
オリジナルの画肌が失われていたので、今回の修復で、
補彩を取り除き、本来の表現に近づける処置をしたとのこと。
詳しい報告書が東京国立近代美術館リポジトリで
公開されていて、読むことができます。
藤田嗣治《自画像》1929年
この作品は、制作後一度もワニスが塗布されていないので、
藤田独特の、タルクを混ぜた油絵具の発色や質感がよくわかる
制作当時の絵肌を残す貴重な作品。
なので、修復は画面に影響が少ないドライクリーニングで
経年の汚れを除去するにとどめたそう。
ルーチョ・フォンターナ《空間概念 期待》1961年
「キャンバスにナイフで切り込みを入れるフォンターナの代表的シリーズ『空間概念』です。一見すると迷いなくナイフをスパッと入れる瞬間的な行為が想像されます。けれど裏面をよく観察してみると、黒い布をあてて切込みの形を丁寧に整え、固定していたことがわかりました。」
フランシス・ベーコン《スフィンクス−ミュリエル・ベルチャーの肖像》1979年
「目止め、地塗りのほどこされた既成キャンバスの裏面に描いています。繊維のダマや、ザックリとした麻の質感を好んだのでしょう」
靉光《自画像》1944年
一宮市三岸節子記念美術館「自画像展」で
https://shizukozb.blog.ss-blog.jp/2021-03-19
チラシのメインビジュアルとして使われていて、
とても印象に残った絵!
「靉光は招集を受ける直前に、この胸をはり、顎を少し上げて遠くを見つめる自画像を描きます。この作品を新人画会の第三回展に出品するように友人に託して靉光は戦地に赴きますが、終戦間もなく上海で還らぬ人となりました。」
「修復できる/できないとは別に、する/しないという判断も存在します。本作は経年で汚れがたまり、その下のワニスは変色していました。専用の溶剤を使ったテストで、変色したワニスは除去できるとわかりました。(中略)修復によって画面がかなり明るくなる、たとえばシャツが真っ白になるような見え方の変化はこれまで作られてきた作品のイメージにどんな影響を与えるのか(中略)今回はワニスの除去を行わず、経年の汚れのクリーニングのみに留めることにしました。」
津田青楓《犠牲者》1933年
2020年練馬区立美術館「津田青楓」展 で見て、
https://shizukozb.blog.ss-blog.jp/2020-03-23
とてもインパクトがあった絵。
この絵は、特高が来るっていうとキャンバスを巻いて箱に入れ、
別の絵を描いているふりをするということを何遍も繰り返しながら
描いた絵。なので「特に絵具の厚いところに亀裂があって、隠しきれないんです。だけど、亀裂もまた、時代の証人だと私は思うんです。」
『現代の眼』619号(2016年8-9月)掲載の「修復家と作品の関わり|山領まり氏に聞く」での発言を再構成 とのこと
はー、なんか‥‥国立近代美術館のコレクション展、すごかった。
質も量もすごいし、それぞれ詳しい解説がつけられていて、
見ごたえあったけど、ちょっと疲れたなー
なんて、2階出口から出ようとしたら、
え!? 何? この作品!!
アントニー・ゴームリー《反映/思索》2001年
ガラスをはさんでそっくりな形の人体像が向き合っている!
ガラスに映っているようにも見えて面白~い!
この彫刻の解説の隣にあった解説で気が付いたけど、
建物の外の青い建造物のようなものは、
イサム・ノグチ《門》1969年
1969(昭和44)年に東京国立近代美術館は、京橋から
ここ竹橋に移転してきました。《門》はこの
新築移転にあわせる形で制作されたそう。
「ノグチの生前、《門》はその指示により塗り替えのたび色を変更し、結果として「赤」「赤+黒」「青」「黄+黒」の4つのヴァージョンができました。ノグチが没した後は、この4ヴァージョンを守り、適宜塗り替えを行っています。」
全体の形を見ることができなくて残念だな‥‥
前庭にある彫刻は、
多田美波《Chiaroscuro》1979年
2022年12月に洗浄を行ったとのことで、キラキラと光ってきれい。
洗浄の様子を動画で見ることができます。
https://www.momat.go.jp/magazine/153
結局この日、東京国立近代美術館に開館の9:30に入って、
14:20までいましたー。
残念だったのが、レストランが貸切で入れなかったこと。
「美術館の春まつり」でテイクアウトの出店もあったけど、
フード類は全て売り切れていました(T.T)
東京国立近代美術館: https://www.momat.go.jp/
「所蔵作品展 MOMATコレクション(2023.3.17—5.14)」:
https://www.momat.go.jp/exhibitions/r4-3
「修復の秘密」展: https://www.momat.go.jp/exhibitions/r4-3-g4
「美術館の春まつり」: https://www.momat.go.jp/extra/2023/springfest/
東京国立近代美術館、コレクション展の作品解説が
「Catalog Pocket」アプリで読めるんです!
ブログ書くのにずいぶん参考にさせてもらいました。
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